脳内シグナル
小ネタ【宵桜】
4月20日 08:28
お題【生きていたいと言ってください】
我儘を言いたいから聞き流して欲しい、と、彼は言った。襖越しで見えない姿がもどかしい。それでも開けてはいけないらしいから、そのまま声を返すしかない。
「俺に出来るならいくらでも聞くが」
「駄目だ」
「……? しかし、希望が有るなら……」
「希望ではない。我儘だ」
「それでも構わない」
普段自分の望みを語らない彼からの我儘というだけで嬉しかった。叶えてやりたいと思うのは当然だ。けれど、彼は聞き流して欲しいと言って聞かない。
「流せないなら、言わない」
「…………分かった、取り敢えずは、聞くだけにする」
これを逃せばもう二度と機会はなくなるだろうと理解していた。叶えられそうならば後でこっそり実行すれば良い話だと少しばかり狡い考えは胸中でのみに留める。
まだ迷っていたのだろう。暫しの沈黙の後、深く息を吸う気配がした。そして、紡がれた言葉には心の臓が止まるかと思った。
「……生きたい」
声は少しだけ震えていた。呼吸も僅かに荒い。耐えるように息を詰め、吐き出すように言葉を続けるその声は酷く弱々しく思えた。
「歳を……とりたい。もう少し、あと少し……あの子達と同じ時を過ごしていたい」
そのあと少しが、どうしても彼には存在しない。
だから諦めていたのだろうか。受け入れていたのだろうか。選ばれるのが自分で良かったと言っていたのも嘘ではないのだろう。
それでも苦しいと、漸くそう自覚してくれたのならば。
「聞き流せるか!」
勢いよく襖を開く。
人身御供になどさせはしないと、此方はとうに決めていた。
******
お題bot様よりお題をお借りしました。
宵桜の雅貴視点。こうなってくれたら良いんだけどな……無理だろうなぁ( ´ ω ` )
雅貴は千里さんが望むより前からずっと生きられる道を探してたんです。だからこそ、生きたいは彼へのご褒美でした。
……あれ? もしかして、各作品の主要キャラ紹介とかあったほうが良いのだろうか( ´ ω ` ;)
コメント(0)
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