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「おじさーん!大介おじさん!」

おじさんが走った方向を探した。けど道が多すぎる。家ばっかりで見通しも悪い。

「そうだケータイ!」

登録した後、電源は切ってなかったはず。入れっぱなしなのに賭けて電話をかけた。

(出ろ…出ろ…!)

もうちょっとで留守電が入るところで出た。

『はい、勝間です』

えっ…

聞いたことのない名前に、思考が停止した。

「…かつま?」

『…!』

ブチッと切れた。

「おいおい…」

おじさんは山中さん宅の人間じゃなかった。まあ…うっすら気付いてたけどさ。

「もっかい繋がるかな」

またかけた。現在使われてないか電源が入ってないらしい。

「だあー!あのチキン野郎!」

実はやっぱり父親でした。とかならもうちょっとカッコ良くバラして欲しい!

「お前の行動は筒抜けだからな!」

ケータイで情報を掴んで、タクシーを捕まえて目的の場所まで向かった。

「へー…」

こういう所なんだ。一応店員さんにお使いを頼まれた子供のふりして確認した。

「ヘリウムありますか?」

商品棚の影に隠れるようにおじさんを待った。おじさんがやって来た。

「おじさん」

「!」

走る訳にもいかない。おじさんがうなるように咳をした。

「ろうそく、確保しておきました」

100円均一で買っておいた品物を見せた。ついでに皿と再生紙も。

「…お、う」

(流されやっすー…)

おかげで助かったけど。あからさまにギクシャクしてるけど。

「なんか…アイスとか」

おじさんが店内をぐるぐる見渡している。

「ここにはないと思いますよ」

「あ、ああ」

おいおい、ギクシャクしすぎだろ。傷つくなぁ!そういうの!

「おじさん、お金払いに行かないと」

「おう」

風船を買って外に出た。心なしか雰囲気が固い。

(けど都合はいいかも)

これから不自然なことをやるし、不自然な状態の方がスムーズかも。

「おじさん、早く届けに行こうよ」

「…?」

「返事、もらいに」

おじさんが迷うようにためらった。オレがさっきの名字のことを聞かないのと、芝居を打ってるからだ。

「いや…」

「せっかく用意したし、パーッと行きましょう」

「けど」

自分の一人芝居を見てるような気分なんだろうな。けどテロップが出るまで演じきるぜ!

「ここ圏内です」

「…」

少し黙ってから、合わせてくれた。

「宇宙のか」

「そう宇宙の」

「けど…宇宙に携帯はない」

すごい今更!

普通の判断能力はあったらしい。ホッとしたようなKYなような。

「届きますよ」

「…届かない」

今までになく現実主義。ってか立場が逆。

「ですよねー」

「…おう」

「届いて欲しかったんだけどなー」

「…おう」

「じゃ、あれですね」

「ん?」

「もう会いに行くしかですね」

墓参りって意味じゃなく。同じところに行くって意味で。

「…」

おじさんの表情は変わらない。返事はなかったけど、否定する訳でもない。

「じゃ、行きましょっか」

空いてる方の手を握った。おじさんがオレに流されて歩いた。

「どこに」

「楽に逝けるとこ」

「は…?」

おじさんが目を見開いた。手を離そうとしたから、指を強く握った。

「お前まで来ることはない」

「そんなこともないでしょ」

「ダメだ。お前は帰れ」

「帰れっつてもね」

知らない場所に放り出すなんて無責任でしょ。な感じに言った。

「送ってく」

「オレ、あの家嫌いです」

「…」

「帰るなら東京がいいです」

「でも」

「でも無理なんでしょ」

「…」

わかってますとも。一人で行くこともできなかったし。もとに戻るのは不可能だし。

「だから、もういいんです」

おじさんの手を握って適当に歩いた。おじさんの手が震えてる。

「いい加減にしろ」

おじさんが静かに怒っていた。色々と勝手な人だ。

「でもおじさんは死ぬんでしょ」

「けどお前はまだ子供だ」

「年は関係ないです」

「やめるんだ!」

怒鳴った。かなり怖い。けどこのままじゃ、おじさんがいなくなる。

「届いて返事もらったら、やめます」

「だからそれは…」

「でさ、おじさんもそうしてよ」

「…」

「死ぬのは、宇宙に届かなかったらにしようよ」

ケータイを取り出した。例のでたらめのアドレスの空メールを作った。

「ほら、おじさんも」

「そんなに…死にたいか」

おじさんはそれ以上言えない。自分を止める方法がわからないから、他人のことも止められない。

「うん」

オレの答えを聞いて、ケータイを取り出した。今電源を入れている。

「…届かなかったら」

「色々あるし…後で考えます」

「…」

唇を噛んで黙った。おじさんのケータイの電源が入りきった。

(そういやヘリウム自殺ってあったな…)

ビニール袋をかぶってる所を発見されるってカッコ悪そうだなぁ。とちょっと思った。

「じゃあオレ、送ります」

空にケータイを掲げて、送信ボタンを押した。

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