※拍手画面では名前変換不可の為、夢主の名前を『有紀』に固定しています。ご了承下さい。
「すみません、雲雀さん。お願いがあるんですけど…」
「なに?」
有紀がお願いごとをするなんて珍しいと顔を上げたら、苦笑いをしながら言った。
「私を殺してもらえませんか」
『叶えたくない願い』
「は?」
いきなりなにを言っているんだ。
高い場所に荷物を置く為に脚立に乗ったそのタイミングでそのお願いはおかしいんじゃないかと、耳を疑って思わず聞き返してしまった。
けれど、有紀なら突拍子のないことを言うのが当たり前なイメージが定着しているから、言いかねないかもしれない。けれど何故今、いきなりそんなお願いを言うのだろう。
「お手数かけるのは心苦しいのですが、このまま自分で対処するのは怖くて…」
「対処?」
対処ってなんだろうと首を傾げる。
「体勢変えたらすぐに外れると思うので、下を抑えながら支えて降ろしてもらえませんでしょうか」
よくよく見ると脚立の踏み台部分にヒールがハマったようで、体勢がおかしい。有紀の言葉に驚いて有紀自身を見てなかった。
自覚はなかったけど結構動揺していたようだ。
「有紀、最初に僕に声をかけたときってなんて言ったの?」
「え?『雲雀さん、お願いがあるんですけど』」
「そのあと」
「ええと…『私を降ろしてくれませんか』」
「…はぁ」
「どうかしたんですか?」
『降ろして』と『殺して』を聞き間違うなんてどうかしている。耳を疑ったのは正解で、その時にちゃんと聞き返せばよかった。これも有紀の日頃の行いも悪いということにする。
あまりにも馬鹿馬鹿しい聞き間違いに、はぁ…と、もう一度ため息を吐くと、なにを勘違いしたのか、有紀は脚立の上で縮こまり微妙に腰と膝を動かしている。
「すみません…まさかこんなことになるとは思ってなくて…靴を脱いであがるべきだったと反省してますので、助けてください」
ものすごく困ってますといった表情でこちらを見ている様子は有紀に動物の耳があったら垂れ下がっていることだろう。かなり情けない顔をしていて思わず噴き出してしまった。
「仕方ないな」
「お手数かけます」
脚立の一番下の段に足を置き固定して棚に手をつきながら靴を脱いでもらう。重りで安定しているから力任せで靴を抜き取る。僕の力ですんなり外れたけど、見事に嵌まっていたからさっきの体勢の有紀には難しくて無理したら怪我しかねなかった。本人はひたすら恐縮しているけど正しい判断だったと言えるだろう。
同じことが起きないように片方の靴も足から抜き取ると驚いた声をあげられ、そのことを不思議に思いながら靴を床に置く。
「ありがとうございます。…ん?」
お礼に頷き手を差し出すと目を丸くして見下ろされる。未だに棚にしがみついているから降りれないかと思ったのだけど、違うのだろうか。まぁ、やることは変わらないからどちらでもいいのだけど。
ぐいと腕を引くとバランスを崩してこちらに落ちてくるので、脚立まで倒れないようにしっかりと踏み締めて有紀の身体を引き寄せる。
勢いよくぶつからないように空いた手で軽く支えたら、安定するようにしがみついてきたので負担になることなくそのまま抱き抱えられた。
そのときに一瞬息が詰まるような感覚に陥ったのは、僕が抱える力を増したのに応えるように更にぎゅっとしがみついてきた有紀のせいだ。
「まぎらわしいこと言う有紀のせいだから」
「私なにか変なこと言いました?って、痛い!雲雀さんの抱擁が熱すぎて痛いです!」
「うるさい。耳元で叫ばないで」
「理不尽!」
僕が離さない状態だからその文句は受け入れるけど、こうやって抱きしめて安心してるだなんて、口にしない。
聞き間違えた願いは実行できるだろうけど、したくない。
それが例え有紀の願いでも。『殺してください』なんて聞き間違いでも二度と聞きたくない。
「とりあえず、有紀は極力高いところ登らないでね」
「はい?わかりました」
有紀の答えにホッとして力を抜くと優しく背中を叩かれたので、身体を離して両頬を掴んでアヒルにしてやった。なにその反応ムカつく。
(ふぉ!)
(…子供扱いしないでくれる?)
(ふぃまふぇん。ふぃふぁりふぁん)
End
■あとがき
有紀への対応がどんどん甘くなっていく雲雀さんに書いてる本人が一番戸惑い、脳内会議が勃発。これ以上はいかんと自重してもらいました。
2014.12.25
リーリア
戻る