リレー小説

2009.2.5 Thu 18:23 :リレー小説
リレー小説1

早朝、清々しい空気を吸って若者二人がほぼ同時に欠伸をした。思わず苦笑いを浮かべたが、二人の内の一人の少女が歩き出したので、それに合わせてもう一人の男も続く。
「リコリシア、今日ってミストは休みなのか?」
リコリシア、と呼ばれた少女は「いや…」と言葉を濁した。
「休むなんて聞いてないけど…カレルのとこに連絡入ってないの?」
「お前んとこに連絡ないなら俺にもねぇよ。」
「えー…今日の授業、実技なのに…。」
リコリシアは考え込み、カレルはだるそうに頭を掻いた。
「俺は正直実技なんかより、魔法学とか受けてた方が気が楽だよ。居眠り出来るし。」
「お前って奴は…」
「だって実技だぜ?武器使うんだぜ?いや、別に使うのはいいけど…、いや、やっぱりめんどくさいっていうかさ。」
「めんどくさいって何だよ!この怠惰!」
「おーい!リコリシアーカレルー!」
酷い口論に発展しそうだった二人の後方から、タイミングよく大きな声がかかる。手を振って走り寄って来た少女が、どうやら二人が噂していたミストらしい。
「おや、噂をすれば何とやらって奴だな」
「遅いぞ〜ミスト!こんな奴と途中まで一緒だった私の事も考慮してよねぇ」
「こんな奴で悪かったなチクショ」
カレルがリコリシアに軽く毒づきながらも3人は歩きだす。
「ミスト、そう言えば今日は何で遅刻したのよ」
「え、ちょっと女のk(ry」
「解った。もういい」バッサリと会話を切り上げる。ミストの女好きはもう病気のようなもんだ。黙っていれば良いのだが、この持病のせいで三枚目キャラで定着してしまった。合掌。
「てーか、そんな事言ってる場合じゃないんじゃない?カレル、今何時?」
「あぁ?今か?今は…………ヤバい、後10分無いぜ?」
カレルが手にした懐中時計は確かに、授業開始時刻7分前をさしている。
「あ〜っもう!ほんとコイツといるとロクなことないわ!!」
リコリシアがカレルの方を見て言った。
「え、ちょ、俺のせいか?!」
「そんなことより早く行かないと遅れるよ〜」
今にも走り出しそうなミストに
「そもそもお前が遅刻してくるのが悪いんだろっ!」
カレルの拳がとんだ。



数分後、3人は今日の授業が行われる森に来ていた。
そこは学園内に造られた生徒の訓練の為の場所で、人工ながら本物そっくりに造られていた。
そこいらへんは流石、国内でも有数の魔法学園である。
「…はあっはぁ…何とか間に合った」
「…だな」
3人が森の入口広場に到着した時にはすでに、あたりには大勢の学生たちが集まっていた。皆、てんでバラバラに好きなことをしている。仲間と喋っている者がいると思えば、念入りに武器を確認している者もいたりといった感じに。

適当に空いている木陰を見つけると、リコリシアはその場にへたり込んだ。
「…2人とももう回復したの…?」
肩で息をしながらリコリシアが尋ねる。ミスト、カレルの両者は
「うん、まぁ…」
「それなりには」
と言って、手近な木によりかかった。
「うぅ…なんか屈辱的…ミストはともかく、人形使いのカレルよりも体力が無いなんて…!」
「んまぁ、そんな気にすんなよ」
カレルがフォローを入れたが、リコリシアはきっとカレルを睨みつけるばかり。
場の気まずさに、慌ててミストが
「そうだよ、リコリシアにはほかに特技があるんだしさ」
と言って、ようやく少し気を取り直したのようだった。
「ところでさ、今日の実技ってなにをするんだろうね」
話題転換をはかるべくミストが言うと
「今日は実戦とかやんじゃないのか?ほら、前回は採集実習だったし…」
カレルが遠い目をしながら答えた。
「あ−そうだといいな〜…もうあんな目にはあいたくない…」
ミストもげんなりした表情を浮かべる。
と、その時どこからかベルの音が聞こえてきた。辺りにいた生徒が一斉に反応する。どうやら担当教師が来たようだ。
「あ、X(イクス)先生だ。」
「え?知ってるの?」
「知ってるも何も、狙撃の先生でもあるしね。」
現れた教師は体つきの良い男性であった。黒のカッターシャツを捲り上げ、晒け出した腕の至るところには無数の傷跡がある。よく見れば頬にも火傷のような傷跡もあり、よく鍛え上げられているようだ。
狙撃の授業を専攻しているミストは彼の顔を知っているらしく、小さく尋ねてきたリコリシアに答えた。
「何か、怖そうな顔してるね…。」
「そうかな?ああ見えて優しいし、可愛いと思うけどなぁ。」
「可愛いか…?」
リコリシアは率直な感想を述べた。厳かな雰囲気を纏い、傷だらけの男が仁王立ちしていれば大多数の者がそう言うだろうが、ミストは慣れているからか、首を傾げて平然としている。
三人が話していると、伝染したように周囲までざわつき始めた。小声ではあるが、次から次へと雑音を生み出していく。
「…あ、来る。」
「へ?」
ミストの言葉の意味を尋ねようとした時、一つの銃声が響き渡る。どうやらXが空に向かって発砲したらしく、右腕を上げている。
「…ぶっ殺されたくなければ黙って聞いてろ。」
「……!」
おかげで再び静寂が戻ってきた。
「…あれのどこが優しくて可愛いって?」
「実行する前にちゃんと言ってくれるあたり、優しいし可愛いじゃーん!」
「ミスト…そんなに死にてぇか。」
「やっだぁー先生!そう怒らないでー!」
命知らずと言うかなんというか。そんなやり取りをするミストの隣で、リコリシアとカレルは冷や汗を流していた。
そして何の躊躇いもなく、何の迷いも無く、Xはミストに向かって威嚇ではない射撃をする。
だがミストは何の造作も無さそうに笑顔で避けた。
「もう一度問おうか。俺のどこが優しくて可愛いって?」
「え?だって先生のさっきの射撃って射線から見ても行動先読みしなかったでしょ?先読みされてたらまず死んでましたし」
相変わらず笑顔でさらっと答えるミスト。その余りのアンバランスさに皆、驚愕が走る。
X先生も少しはミストの事を認めたようだ。
「………なるほど、な。まぁ、俺にも世間体と言う物があるしな」
「なんなら撃ち殺しても良かったのか?」と言うミストに放った冗談はとても冗談には聞こえ無かった。
「静まれ。これよりクラス対抗で3人1組の実戦形式の授業を始める。もうパーティーは粗方決まって居るのだろう?代表者はくじ引きで入るブロックを決めろ」
そしてちらほらと先生の所に集まって行く。ミスト達は少し出遅れてしまったようだ。
「ほら、カレル行って来いよ」
「他人に言うくらいならリコリシア、自分で行けよ。めんどくさいし……」
「賛成!ほらとっとと行って来なさい!」
「めんどくせぇなぁ……」
そう言うと、カレルは渋々とだがくじを引きに行った。



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