リレー小説

2009.2.5 Thu 18:23 :リレー小説
リレー小説2

くじを引くカレルを待つ間、それぞれの武器を確認する。
「実戦形式か〜どんなやつらと対戦になるんだろ?」
愛用の銃の具合を確かめながらミストが言った。
腹式呼吸で声出しをしていたリコリシアは
「うーん…あまり肉体派とは当たりたくないわ…さっきみたいな」
と発声しながら答えた。もちろん、後ろのほうは小声である。
「えーなんで?X先生可愛くていいじゃん」
「私、暑苦しいのは嫌なのよ」
「ん、でもさ〜対戦相手がかわいくても攻撃しづらくない?だったらああいう方のが」
「そう?可愛いものの方が、こう…虐め甲斐があって良いと思うけれど…」
そう言うリコリシアの目には妙にアブナい光が。
「…あ−そうかもね…あはははは」
ミストは見なかったことにした。
「おい!引いてきたぞ」
いいタイミングでカレルが帰ってきた。
「おかえりーどうだった?」
「ああ…φブロックだった」
「で、誰だった相手?」
「知らん奴ばっかだった。確か…マリジュアナ…」
「え、マリジュアナ?」
「知ってるのか?」
「ん…まぁ。同じ授業取ってるから」
「何の人?」
「笛吹よ。笛の音で何かを操ったり…それに回復もできたはず…
「うわ…補助有りか〜」
「下手すると肉体派チームより質悪いな…」
苦々しそうにカレルが言った。
「他には誰がいたの?」
「あ?と、アル…なんだっけか。悪い、後は忘れた」
「何だよ〜1人しか覚えてないのかよ!」
「いや、だって、そんなにじっくり見てる暇無かったんだぞ!ブロックと場所確認したらさっさと行け〜て言われるし」
「ほんと使えないわねぇ。それで、場所は?」
カレルは“だったらお前らが行ったらよかったじゃねえか”という言葉を何とか飲み込んで、言った。
「"DeepZONE"…だ。」
その言葉に思わず目を見開くリコリシア。それもそのはずだ。"DeepZONE"とはつまり、底無し沼が無数に設置されてあるエリアのことである。ハマれば最後、抜け出せはしない。なかなか厄介なエリアなのである。
もちろん沼など幻術ではあるのだが、リアリティが非常に高く、常人ならば容易に飲み込まれてしまうほどの驚異の力を持つ。ただ、似たような幻術使いが居れば状況は違うだろうが。
「ってことは、ミストはあんまり身動き取らない方がいいかもね…。」
「だけど唯一回復術を使えるリコリシアの詠唱は、誰かが時間稼ぎしないと成功する可能性も低くなるだろ。」
「…っていうかさっきから気になってたんだけどさぁー。」
真剣に話し合いしていた二人の会話を割って、多少言いづらそうにしながらも、ミストは間延びした口調で言葉を繋げた。
「カレルの武器たちはどこ?」
「…………あ。」
カレルの思い出したかのような表情に、すべてを悟ったのかリコリシアの鉄拳が脇腹に綺麗に入る。カレルは小さくうめいて、腹を抱えてその場に屈み込んだ。「あーあー」というような顔をしながらミストはそれを眺める。
「最悪!信じられないわ!自分の武器を忘れてくる人がありますかっ!」
「いや…!ぐ…つい、うっかり…!」
「どーすんのよ!しょっぱな不戦勝とか嫌だからね私!」
「そんなこと言ったって……」
「御主人様(パドローネ)、何故私を連れて行ってくださらなかったの?」
険悪な雰囲気になってきたチームに駆け寄る…人形?いや、それとも人間……か?
古風なドレスに身を包んだ女性が向かって来る。そして、それに黙って居ない奴が一人。
「素晴らしい、私は宝石の様に美しい瞳は見た事が無い!」
「……あの、御主人様…?どう致しましょうか?」
「……基本放置だ。リコリシアが何とかしてくれるさ」
「ほら、眼を冷ましなさい!良く出来てるとはいえ、自動人形よ?」
「あ……あぁ、何だ……」
溜め息をわざとらしくつき、肩を落とすミスト。だがリコリシアは無視してカレルに問い詰める。
「で、今日は何で人形を置いてきたの?答えによっては承知しないわよ?」
「……いやぁ、爺さんや親父が作った自動人形じゃあ実習用の対人武器ってよりは対魔兵器だし……繰糸だけで十分かなぁと……」
「で?その繰糸人形は何処にあるのよ?」
「…習慣って恐ろしいよな」
「は?」
「いつも武器が勝手に付いて来るだろ?俺の場合」
「え〜と、それはつまり“持ってくるの忘れた”と?」
「そう言う意味とも取れるな」
「なぁに格好付けてんだ呆けぇ!!!いっぺん死んでこい!!!」
リコリシアが本日最高のクリーンヒットを決めるか?!カレル、絶体絶命!!とその場にいる誰もが思った。
だが次の瞬間、皆が目にした光景は1人の女性がカレルの鼻先でリコリシアの腕を片手で止めているという、予期もしないものだった。
「ちょっとアイリス!邪魔しないでよ!!」
声を荒げるリコリシアに
「いいえ、我が主人に危害を加えるつもりならば」
静かな声でアイリスは答えた。
「それにリコリシア様方にとっても、ここでご主人様にダメージを与えてしまうのはよろしくないことかと」
「!…わかったわよ」
まだ怒りは消えていなかったが、リコリシアは素直にカレルに突き付けていた拳を下ろした。アイリスの云いたいことがわかったからだ。
場の緊張がとかれ、ホッとしたミストは思わず
「…なんで今日はこんなにも緊迫することが多いんだろ」
と言葉をもらした。「…で、そろそろ行かないとまずいんじゃないか?」
辺りを見回しながら、やや遠慮がちにカレルが言った。
さっきまであんなにたくさんいた学生たちは、今では見る影もない。
「そうね…どっかのお馬鹿さんのお蔭で思わぬ手間を取ってしまいましたけど?!」
イヤミったらしくいうリコリシアをなだめつつ、ミストもそれに同意した。
「じゃ、走るよ!」「了解」
「もう、また?!…しょうがないわね…」リコリシアももう文句は言わなかった。そうして、3人と1体は"DeepZONE"に向かい走り出した。

・・・

目的地に着くと、相手のチームが退屈そうに待っていた。そしてカレルたちの姿を見ると、中央に居る可憐な少女がペコリと会釈した。その少女が恐らくマリジュアナであるのだろう。
左右に控えた少年二人の内の一人が、待ちかねたとでも言うように「遅ぇよ、待たせんな!」と声を荒げた。その言葉に申し訳なさそうに頭を下げるリコリシアとアイリスだったが、カレルはぼんやりと敵チームの少女に見とれている。ミストに至っては既にマリジュアナの元に駆け寄り、なんと手まで握っている。ちなみにこちらに向かってくるまでに、彼女はアイリスを言葉巧みに口説いていた。飽き足らず。
「本当にごめんね、レディ。良ければこの後食事でも…。」
「ちょっと待てぇ!何お前気安くウチの紅一点に手ぇ出してんだよ!」
「まぁ、そうカリカリすんなって。こっちなんか黒一点だぞ!すごくね?」
「すごくねーよ!むしろしょっぺーよ!」
先ほど声を荒げた少年と口論に近い言い合いをしていると、マリジュアナはくすっと小さく笑った。その様はとても麗しく、幼い表情には少女らしい無邪気な色も浮かんでいた。
「はじめまして、マリジュアナと申します。お手柔らかに、ミストさん。」
呼ばれたミストは嬉しそうに、「私のこと知ってんだぁ」と顔を綻ばし、少年にゲンコツをひとつ食らわされていた。
「それにリコリシアさんも、今日は敵だけど…よろしくね。あ、あとカレンさんも。」
「カレルですけど。」
「では、こちらの紹介をさせて頂きますね。」
「あれ?スルー?おかしいな、聞こえなかったのかな…。」
カレルの呟きも虚しく、マリジュアナは左右に立っていた少年二人の背中を押して前に出した。
「どうも、エンツォです。お手柔らかに頼みますよ」
柔和な物腰とは対称に
「アルフレッドだ、さっさと始めよーぜ?待たされてる間暇で退屈で仕方ないんだよ」
そう言って、あからさまな挑発を仕掛ける。だがリコリシア達は全く気にしない。
カレルはアイリスと何かしているし、ミストは未だにマリジュアナを口説いている。
「少しは聞けよ!ぶっ殺すぞ!?そこのノッポ!それとも恐いの?ん?」
「まぁまぁ、そう言うなよ。人形を使わないと戦え無い可哀想なまでに臆病な方なんだから」
あくまで柔和な表情でサラッと毒を吐く。……リコリシアがこわばった事に気付かずに。ミストがやっちゃったねとうめいたのも気付かずに。

「御主人様に……」
アイリスの言葉を遮るカレル。
「OK、OK。そこまで言われては、僕も下がれませんね。ミスト、リコリシア下がって魔力と弾薬温存してろ。僕達だけで十分だ。来い、アイリス」
「あぁ……ヤバい、一人称が僕になってるってそうとうだぜ?」
「貴方がた、ご愁傷様。生きてると良いわね」
「はっ、所詮ハッタリだろ?」
この一言で
初戦、開始




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