俺はそのままでもいいけどね。
自分という人間を一言で紹介しろと言われたら、俺は迷わず女々しい≠ニいう言葉を使うだろう。女々しい、外見と違って中身はおとなしくて草食系。
俺の彼氏が俺とは正反対の男らしい性格だから、なお自分は女々しいんだな・・・っと感じることがある。
いくじがないとか未練がましいとか、メソメソしすぎるとか、そんな言葉をかけられることは一度や二度じゃない。
こんなうじうじしている俺は男なんだろうか?生まれてくる性別間違えたんじゃないか・・・と自分でも疑問に思うことさえある。
一度深みにはまるとなかなか抜け出せないこの性格はよくいえば繊細で悪く言えば面倒な人間といえよう。
身体は大きいのに、そのぐぢぐぢした暗い性格なんとかならないの・・・?なんて昔からよく姉に貶された。
姉にもうざがられる程のうじうじ性格を、俺自身もどうにかしたいと何度か男らしい行動をしてみようと思うも、今現在もそれは成し遂げられていない。
小さなことですぐ悩むし、女の腐った人間のようにぐちぐちというのも健在だ。
俺の彼氏はそんな女々しい俺すらも、ありのまま受け入れてくれる。
女々しい俺とは正反対なのが俺の彼氏だ。
彼氏は俺とは違って、実に雄々しい男前だ。
その面はもちろん、心意気だって男前だと思う。
懐は海より深く山より高いくらい大きいだろう。
なんせ、190近いデカブツな俺なんかを彼氏にしてるくらいだから。
しかもこーんなでかい俺を抱いているときている…。抱いて…といってもだき枕じゃないぞ。ちゃんと、俺と性的なこと…sexしてるってこと。
でかくて可愛らしさもなく、うすっぺらい長身の身体をあいつは愛してくれるのだ。
あいつと俺の身長差、その差12センチ。12センチっていうのは、キスするのに理想的らしい身長差らしい。
でも、抱かれる俺と抱くあいつからしたら、その距離はちょっと大きすぎる気がする。
男役であるあいつを俺は見下ろすことしかできないし、俺の方がでかいからあいつの腕にも収まりきれない。
抱いている男の俺が自分よりでかくて見下ろしてくる・・・なんて抱いている男からしたら複雑なんじゃないだろうか。特にあいつは男らしい性格だから、抱いている人間なんかに見下ろされて男として嫌になるんじゃないだろうか。
可愛らしさもない俺だからこそ、身長くらいはあいつと並んでも可笑しくないようになりたかった。
元々、あいつはホモじゃなくてちゃんと女の子と付き合った過去もあるからなおのこと。
俺はあいつと付き合ったのが初めてだったけど、男前でクラスでも人気だったあいつは小さい頃から女の子にもてていた。
俺とあいつは元々幼馴染という間柄であり、小さい頃から男前で竹を割ったような性格のあいつが俺は昔から好きで、玉砕覚悟で告白したのが始まりだった。
告白したのはまだ俺が少しだけあいつの背より大きく身長差があまりなかったとき。
当時、あいつが付き合っていた彼女と別れグダグダと俺の部屋であいつが愚痴を零していた時だ。
普段あいつは人の悪口なんか言わない。カラッとしている性格の為、あまり根にもたない彼が、その日は珍しく別れた彼女の愚痴を溢していた。
当時別れた彼女は学年で一番可愛い女の子だったが、裏表が激しく我侭な子だった。
あいつには猫を被っていたようだったけれど、俺には冷たかったし遠まわしげに俺との付き合いをやめろとまで言った事もあったらしい。
別れの決め手は、彼女の俺への嫌がらせがあいつにバレたからだった。
躾にうるさく男らしい性格に育てられたあいつからすると、他人を苛む人間と一緒にいると虫唾が走る・・・らしい。元々ただ可愛いな・・・と思って付き合っただけであり、彼女に対する恋愛感情は皆無に等しかったらしかった。
『外見なんてどうだっていいってわかったよ。性格ブスは駄目だな…。どんなに可愛くても他人を卑下するやつは無理だ…。次付き合うなら外見なんてどうだっていいから中身がカワイイ子がいいな…ぶりっことかじゃなくてさ…』
あいつが俺の部屋のソファーによりかかり、やけっぱちに言うから。
だから魔が差したように、ついつい言ってしまったのだ。
『俺なんか、どう?』って。
『は?』
は?と聞き返したあいつ。当然の反応だった。
俺たちはずっと幼馴染みで、俺があいつを好きといったのはたぶんその時が初めてだったと思うから。
『俺、お前の為ならなんだってするし…、その外見は可愛くないけど…。俺…お前のこと、好きで…ずっと、好きで』
『ん〜』
『いきなりごめん…!俺男なのに突然こんな…。でも、好きなのは事実だから言っておこうと思って…。幼馴染み面してずっと好きだったんだ・・・。ごめん。気持ち悪いよな・・・でも・・・』
『ん〜』
『あの、』
気のない返事に、あいつは俺の言葉に困っているんだと判断した。
『ん〜?』
ジロジロと品定めするあいつの視線。
チクチクと刺すような視線がいたい。
隣に座っている俺をただじっと見つめるあいつの視線。
『あの、あ、じょうだ…』
刺さった視線がいたたまれなくて言葉を撤回しようとしたところで、突然着ていた制服のネクタイをひかれ、唇を塞がれた。
軽く唇が触れあうくらいのキス。
『ななな…』
『顔真っ赤だな…』
『へ…?あの、』
『うん…。キスできるし、気持ち悪くもねーし、いいよ…。付き合っても…』
『え…』
『ま、お前女の子みたいに小さくねーけどいつも真面目だし…?それにずっと一緒にいるお前なら性格ブスじゃねーって知ってるし。お前ってなんか可愛いしな…』
『か、カワイイ…?』
『んー、カワイイカワイイ』
むぎゅむぎゅと俺の身体を抱き締めながら。
まー、宜しくな…。彼氏さん…?
言葉と共に、チュッと2度目のキスをされた。
2度目のキスは、1度目のキスよりも長く。
そんな風に始まった俺たちの関係。中学の時から、俺とあいつの身長差は少しあった。といっても成長期ではなかったから、今ほどじゃない。同じ目線くらいの位置で、ちょっと俺の方が高いかもね・・・くらいの距離だった。
それが、中学3年に入り早い成長期に陥った俺はぐんぐん背が伸びて、気づけばあいつを見下ろすほどの身長になっていた。
『抜かれちまったな…背…』
あいつは、大したことないように笑っていたけど、俺はあいつとの身長差が開く度に落ち込んでいた。
キス、しにくくなるし。あいつの事を見下ろしたくない。
なによりあいつが俺を抱くとき自分よりでかい男が自分の下で喘ぐなんて気持ち悪く思うんじゃないかって怖かった。怖がったところで俺たちの身長差は縮むことはなかったけれど。
中学で付き合った俺たちは、そのまま同じ高校を受験し見事合格を果たした。
成長期真っ只中な高校入学の時は俺は既に180を優に越えていて、新入生では一番でかかった。あいつもけして背が低いわけじゃない。平均以上だ。でも、俺がならんでしまえば、やはり小さく見えてしまう。
『お前でかくていいな…』
『は?』
『見つけやすいから…、ちょっと離れても迷子にならないだろ…?そんなにでかかったらさ…』
『でかい…』
あいつの言葉に落ち込む俺に
『俺が見失わずにすむからいいや…、な…?』
あいつは、ニッと歯をみせて笑い、俺の手を握った。
『…手っ…!なんで…みんな見てる…!』
ただでさえ、俺はでかいから視線が集まるというのに…。
あいつは、『虫除けだからな〜』なんて、パニクる俺を余所に俺の手を引いていった。
その時もあいつは相変わらずゴウイングマイウエイで、周りの視線と女の子のキャーキャーと俺たちを見て叫んでいるのなんて全てを無視していた。
『また、ホモってからかわれるじゃん…』
『ま、また大体仲の良すぎる幼馴染みで片付くだろ…。それともサービスしていくか?』
飄々という、あいつが憎くて俯く。
しかし、俺のほうが10センチはでかいから、俯いてもばっちり顔が見られる訳で…。
『赤くなってんぞ…、ばぁか…。お前だって噂広げてる原因なんだからな…』
あいつは恥ずかしがっている俺を見て、嬉々としてからかっていた。
『なぁ…、また高校ではバレー部に入ろうぜ…』
『やだよ…。ジャンプして、身長大きくなりそうだし…』
高校でもあいつは、中学のとき同様俺をバレー部に誘った。
中学で俺とあいつはバレー部だったから。
ほんとうは、俺は高校ではバレー部に入る予定はなかった。
運動したら背が伸びるとなにかに書いてあったから。
部活自体は、好きだったけれどこれ以上身長が伸びて更に釣り合わなくなるのが嫌だった。
だから、高校では運動部に入るのはやめようと思っていたのに…
『大きくなればいいじゃんか…。』
『俺、大きくなりたい・・・』
『我が儘者め・・・。小さい男から顰蹙かうぞ』
『いい・・・』
顰蹙かうくらいで小さくなれるなら、いくらでも顰蹙くらいかいたかった。
俺にとっては、重大な問題だったから。
『お前が部活にいないと俺は困るなぁ』
『は?なに、急に』
『だって、俺とお前中学の頃から黄金コンビだっただろ・・・?』
黄金コンビというのは、かつてバレー部に在籍していた俺とあいつにつけられた名前だ。
あいつがあげたトスを俺が毎回決めるし、あいつは俺に打ちやすいボールをあげてくれる。
どちらかが不調だともう一方も不調になる。
どんなことを要求しているか、一番わかるのがあいつだった。
あいつもそうだっただろう。あいつは一番俺にトスをあげていた。
『俺がどんな球でもあげてやるからさ…。お前は俺があげた弾、決めてくれよ…。
お前はどんなときも俺のパートナーなんだからさ…。
俺の拾った球をあんなに綺麗に決められるの、お前くらいなもんだぜ…』
少し照れたあいつが屈託なく笑うから。
恋人としても、それ意外でも必要とされているのは嬉しかったから。
『大きくなっても…』
『ん…?』
『俺がお前よりでかくなって…見下ろすくらいでかくなっても、お前は俺を抱いてくれるか…?愛してくれる・・・?』
不安を吐露するように訪ねてみる。
『…抱いて…って昼間からおさかんだねぇ…君は…』
『なっ…』
『まぁ、君が欲しいと言うんなら俺はいつでもいいけどね・・・。うん』
ポッケに手を入れながら、あいつはそそくさと歩き出す。
はぐらかすようにまくし立てて言われたけど、そっぽを向いたあいつの耳が真っ赤だったのを今でも覚えている。
現在。
高校3年の春。桜が散り始め、真新しい制服を来た1年生が高校に入学し始めたとき。
俺の身長はついに190をこえた。大体の人間に見上げられるし俺より大きい人間は滅多に見ない。
あいつの身長も高校で伸び始め、今では178センチになったらしい。
12センチ差だ。一時期は15センチ以上の時もあった。
「また随分と伸びたなぁ…。俺も伸びてんだけどな…」
学校の廊下にて。
あいつは俺の顔を見上げならがまじまじと言った。
上目線でじっ…と黒い瞳で見詰められると、落ち着かない気分になる。
あいつは無駄にフェロモン垂れながしているから・・・。
「ま、俺は小さくてもいいんだけどな…」
「…いまの…ままで…?」
「お前、よく俯いてるからさ…。
俺が小さいほうがお前が俯いても顔、ちゃんと見れるだろ?あと俺の顔見るときにちょっと伏し目がちになっているのもなかなかいいもんだし。
それに…」
ニヤリとあいつが笑ったかと思うと、あいつは俺の肩を掴み…
「わ…っ!」
そのまま、壁際へ。
俺を壁側にやり自身は壁に両手をついて、俺の顔を覗き込んだ。
「こうやって、囲いながら下アングルからお前の顔を見るのも悪くねぇから、さ…。
キスだってしやすいだろ…?
この身長なら、俯いて逃げることなんてできねぇだろうから…さ…。
それに、まだ俺も成長期終わってねーし…。そのうち同じくらいにはなるかもしれないだろ…
だからいまは、まだ…」
くいっ…と、ネクタイが引っ張られると、そのまま、下からキスをされる。
そのまま、首筋までキスを落とされ…
「いまは、このままでいいわ…」
あいつは笑った
※
私にしては珍しい長身受けですv
お題にあったので作成してみました!
なんか不思議な終わり方になってしまいましたね。
槙村はネクタイ引っ張って顔を近づけさせた 後、唇を奪う行為にときめきを感じます…!
個人的に、ヘラヘラした攻めより低身長の猫 個人的に、ヘラヘラした攻めより低身長の猫 背気味なおっさん×生真面目な男(もしくは、 初な男)なんか好きです。
あと、ちょっと年齢差があるんだけど受けが ぽやぽやしてて俺がしっかりお前をみてやる!系攻めの子もイイ。
「ちょっとでかいくらいで大口叩くんじゃねぇ」とか、「頭撫でるんじゃねぇ!」とか 吼えるのにキュンとします。