そのうち書きたい小説の断片。分類はラブファンタジーになるかな。
復讐を望む魔術師と人形のお話。
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「君の名は、“アイリス”だ」
少女よりは大人びた、だが女性と呼ぶにはいささか幼過ぎる顔立ちの少女に向かって、青年は優しく諭すように言葉をかける。
うねり一つない銀髪は、腰よりも長く、暗闇の中でもその存在感を示す。
白い肌は、思わず触れたくなるほど、まるで陶磁器のように滑らかでみずみずしい。
その身を包むのは、多種多様なレースで装飾された、ドレスにも近いワンピース。淡い水色を基調にしたそれは、涼やかな彼女の顔立ちをよく引き立てていた。
まるで、アンティークドールに美しい少女。そんな少女が、青年を見つめていた。
――何一つ、アイリスと変わらない。
それに、青年は安心し、満足そうに笑む。
「かしこまりました、マスター」
だが、長いワンピースの裾を持ち上げ、恭しくお辞儀をする“アイリス”。
その以前とはあまりに違う態度に、胸が軋んだ。
姿形は変わらない、瓜二つ。しかし、その心根は全く違う。
(“アイリス”はアイリスじゃない……)
その当たり前だが、考えることのなかった事実に愕然とした。
ただ、青年は恋人を取り戻したいと必死で。
――それ故に、少女を“作った”。
否、正確には人形師に人形を作らせ、青年が魔術によって動くようにしたのだ。
少女は、青年の魔術によって作られた動く人形だ。
今は、亡き――殺された恋人に似せて。名前も、彼女と同じものを与えて。
恋人の代わりになればいいと思った。だが、やはりそんな簡単な話ではなかった。
「……“アイリス”」
「なんでしょう、マスター」
「俺は俺の復讐をする。手伝ってくれるか?」
彼女の代わりにと作った人形に、彼女を殺した人間への復讐を手伝わせる。
なんて滑稽なのだろう。
だが、青年に復讐をしないという選択肢はなかった。
「勿論です。私は貴方の所有物。マスター、ご命令を」
彼女と同じ顔で。彼女と同じ声で。彼女と全く違うことを言う、“アイリス”。
穏和な彼女なら、間違いなく止めたことだろう。
――“アイリス”は、アイリスではない。
当たり前だ。そんなことに今の今まで気付けなかった自分は、どれほど愚かなのだろう。
(ああ、愚かだろうな、俺は)
歪んだ顔で、不気味なほど静かに笑む。
彼に残されたのは、復讐という暗く道だけ。勿論、それがどれほど愚かなことか、分かっていたが。
死者は還らない。復讐など、ただの自己満足。
だが、青年には自分で自分を止めることは出来なかった。
そうでなければ、おそらく彼の精神は壊れるだろう。
憎しみ、悲しみ、怒りの矛先を向けて、ようやく保っていられるのだ。
軋む胸に気づかぬ振りをして、青年は“アイリス”に微笑を浮かべた。
それは、酷く歪んだものだった。
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以前人形の話を書いた時に続きを読んでみたいという感想をいただいて、私も気に入ったので、もっと面白くならないかと練っていたのですが……気付けば全く違う話になってしまった。
あちらは骨董品店での、おじいさんと人形の話なんですよね。それはそれで書きたいのですが。魔術とかエクソシストとかの方がわくわくするかなぁと思ったんですが。あと老人よりも青年で、恋愛要素入れてみるとか。
……しかし、ここまで変わるともはや同じものだとは言えない(苦笑)
魔術師でエクソシストな設定にしても面白いかなと思案中。少々無理がある気がするので、どうなるか分からないですが。
ちなみに、こういう人形・機械じみた無感情の女の子キャラも好きなのです。
こういう子が、感情を得ていく過程を見ていたいですね。