ーside Uー
俺の背中だとか、肩だとか、シーツを掴んで離さないのがいつものその指。
俺の頬や胸の上で踊っている。
でも今は、見えないところで踊っている。
俺の上ではなくて、自分自身の中で踊っている。
見てくれと、言う。
俺に見られながら、自分で自分を追い詰めている。
『んんん、あぁ、だめ、』
何がダメなんだか、いつも思うんだけどサ、言われて悪い気はしないほうの、ダメのひとつ。
ダメじゃないから。
二本の指が湿地のなかのぬかるみに飲み込まれていく。
芯から溢れでたきたものたちで濡れて、白熱灯の下で卑猥に煌めく。
『ユノ、ユノ、』
ひとりで声をあげて、困ってるみたいに、でもものすごく幸せそうに、笑っている。
俺の名前を呼びながら。
『もう、イク、ああ、』
本当に自分一人でイけるんだって、思ったのが正直な感想。
でもその顔はやっぱり、幸せそうで。
一人で見てるだけの俺がなんだか二人しかいないけど場違いみたいにも思えるっていうか、ネ。
俺に見られてるだけで、こんなになる男って、お前だけだよネ。
たいしたもんだよ、
ほんとに、
可愛いやつ。
まるで俺だけのために完成した姿。
欲張りな指。
二本で奥に進み、それから引いて、
二本で芯を擦り、そこから快楽の追撃を受ける。
『イクイク、イッちゃう、』
聞こえてきた声を文字にすると、昔見たそういう映像の女たちのそうでもなさそうな声と一緒だ。
ああ、こういうこと、お前も言うんだ、って。
いや、それは今日に始まったことじゃないけど。
言うよ、普段のセックスでだって。
でもそれって俺が与えてるものからくるもので、
今は自分で与えて自分で楽しんでいる上で言ってるんだ。
すげえなって、思っちゃう。
なあ、お前が今後いない夜なんてのがあったらさ、
俺はお前のこの姿を思い出して楽しんじゃったりするようになるのかな。
『あぁ、もう、いい…?』
自分で楽しんでいるのに、果てることの許しを乞うらしい。
俺に見られ、
俺を見ながら、
自分の指で、
自分の芯と奥を遊ぶ。
高まるものに許しすら乞う。
『ダメだ、』
一蹴。
『あぁ、』
瞳は見開いて、唇が悦に歪む。
そしてこともあろうか、その瞬間に達したらしい。
この男は、支配され、心を握られ、選択を拒まれて達しやがった。
とことん俺でしか生きられない男らしい。
上等じゃないか。
俺はね、チャンミン、そんなお前しかもう、愛せない。
お前が変形した愛情を持っている特異体質だとしたら、
俺はそんな特異体質しか愛せない異端児なんだろう。
だってサ、白く塗れたお前を見て俺だってガチガチになれるんだ。
まいったね。
ーside CMー
真っ白になってしまった。
ダメって言われた瞬間、真っ白になってしまった。
頭も、手も。
こんなのって初めてだ。
たまらなかった。
気持ちよった。
僕のいけない性癖を見て、
まだダメって、それってもっと見せろってことなのかなって思考が反応する前にゾクゾクして、
イッてしまった。
ダメって言われることで、求められているのか、って。
こんなこと、初めてだ。
一人で慰めてきた中で、貴方はいつも僕を甘やかしてきた。
新しかった。
慰めている中、拒んでくる貴方の顔なんて、今まで思い描いたことがなかった。
出てきてくれたことがなかった。
生身の貴方に拒まれて、達してしまうほど嬉しく思うなんて、初めてだ。
『ダメって言ったのに、』
貴方の声に、体が反応する。
体の奥からまた熱いものが込み上げる気がした。
今日で三回目の吐精だ。
出るものは、出るらしい。
目の前に貴方がいる限り、絶え間なく生産されているのだろうか。
『真っ白だな、チャンミン、』
透明でヌルヌルしたものと、白くてドロドロしたもので濡れた手を掴んでくる。
もう、次は何を言われて何をされるのか、気になって気になって、期待してしまっている体になっている。
僕の体はもう、まともじゃないんじゃないかな。
呼吸を整えるのに精一杯で、彼を見上げているだけだった。
そしたらね、彼は自分のもう片方の手で服を下げて大きく大きくさせた僕が大好きな大好きなそれを目の前で出してきたんだ。
クラクラした。
夢なんじゃないかって思った。
見慣れている。
ここ最近は毎晩見ている。
それで貫かれて気持ちよくなっている。
でも、今日はちょっと違う。
クラクラしたの。
僕はどうなっちゃうの。
いつもどうにかなっちゃってるのに、
今夜はもっと、どうにかなっちゃいそうで。
怖かった。
『して?』
僕の汚れた手で、貴方の芯を掴ませられる。
そこは、命令しないんだね、従うように言わないんだね。
僕に選択させるんだね。
ふふ、
変なの。
『ご褒美、』
その単語に、背中が震えた。
『やるから、』
どんなご褒美なの。
ううん、なにもいらない。
なにかが欲しいんじゃない。
貫かれたいだけ。
僕は三回だ。
貴方はまだ、これから一回目。
貫かれるには、まだ早い。
そう言い聞かせて、僕は手にとった芯を唇で迎える。
熱くてヌルヌルして、先っぽだけが柔らかくて、ドキドキした。
『ん…』
くわえただけで、僕のぬるかるみがまた、沸騰しそうだ。
ーside Uー
瞼が落ちて、鼻から息が抜けていく。
俺をくわえるために、大きく静かに呼吸を整える。
汚れた手で支えて、一度深くくわえたあとに、ゆっくりと先に向かって唇が動いた。
唇のあとに、舌がついてきて這ってくる。
たまらない瞬間。
先まできて、それから折り返すようにまた喉奥のほうまで含まれる瞬間。
これが、たまらない。
唇をきゅっとすぼめられて、きつくなる瞬間。
『んふ、』
呼吸。
吸い込みきれなくて、吐き出しきれなくて、少し苦しそうにする。
『はあ、』
それでもまた、奥まで入れては、先に向かって唇と舌を動かす。
『おっきい、』
うっとりと、言った。
苦しそうでも、嬉しそうに唇が一瞬上がる。
赤い舌が見えた。
一度口から出して、先だけを口にすると舌を踊らせてきた。
チャンミンの口内から、湿った音がした。
ああ、ぶっかけてやりたい。
手が白く濡れたように、
汚れたように、
今度は俺で真っ白にぶっかけてやりたい。
最低な思考だと思う。
どこまで俺はチャンミンを汚したいのだろう。
落としたいのだろう。
堕としたいのだろう。
吸い上げては俺を引き出そうとする動きに変わる。
口は開いたままだから、唇からまた濡れたものが伝ってくる。
手も、腹も、口も濡れている姿だ。
真新しいシーツの上、ぽつりぽつりと、すでにシミを作っている。
ズルリと音を立ててなにかを啜って飲み込んだらしい。
ゴクリと喉がなった。
それから、瞼を持ち上げて俺を見てくる。
唇が一瞬離れた。
目が見上げてくる。
『ユノ、』
見上げてくる顔が上気して、目尻がもう、抱かれたあとのあの色になっているんだ。
もう少しなんだけどな、まだ、もう少し、甘い。
ぶっかけてやるまで、まだ少し足りない。
俺はチャンミンをどうしたいんだろう。
守りたいのか、
壊したいのか、
汚したいのか。
『気持ちいい?』
不安げに見てくるのは、何故だろう。
『足りない?』
首を少し傾けて、聞いてくる。
『足りてる、けど、もう少し。』
なるほど。
大丈夫、お前の気持ちは足りてるヨ。
足りてないのは、もう少しの刺激。
不安な桜色が明るく色付く。
それからまた、チャンミンは瞼を落とす。
あたたかい中に俺がくわえられる。
今度は口のなかで溶かれるように揉まれるんだ。
チャンミンを見下ろしている。
時々短い声を漏らしながら、首と顎を動かして出し入れするみたいに動いてくれている。
落とされたと思った瞼が上がって、こちらを見る。
気持ちいい?って、目で聞いてくる。
健気な姿がある。
俺のために、誰にも見せられない画図になってまで。
高まる。
その健気な姿に欲情している。
俺が。
『んっ、』
俺が動く。
お前の口のなかなで。
俺が動く。
苦しそうに目を開いて、顔をしかめる。
その苦しさを緩和しようと、呼吸と舌の動きを順応させてくる。
俺に尽くそうとする姿。
『なあ、チャンミン、』
俺に愛されるための姿。
『どうされたい?』
俺に、どうされたい生き方なんだろう。
男が、男をくわえている多分普通ではない姿。
決していいものではないものをくわえて、
俺に支配されるみたいな姿になって、
身体中を汚されて、
それでもなお、
こんなふうに笑っているのは、
どうしてなんだろう。
『ふふ、ぼくが、』
『うん、』
笑う。
嬉しそうに、笑う。
『のみこんでしまいたい、』
濡れて汚れた唇が言う。
何を、
俺を、
愛を、
それか。
高まる。
俺の、愛が。
俺の、多分綺麗ではない、片寄って育った感情が、高まる。
ーside CMー
どうされたい、
そんなの決まってる。
愛されたい。
それだけだ。
今、僕たちは多分いつもとは少し違う雰囲気。
もうなんでこうなったんだかは忘れてしまったよ。
貴方のにおいに頭のなかがドロドロになってしまっている。
支配されるみたいな、
包まれるような、
そのなかで活かされるような。
歪んるようにでも、
神聖なものにも、
見えてしまう。
のみこんでしまいたい。
全部全部、貴方をのみこんで貴方を僕のなかで活かせたい。
のみこんでしまいたい。
もうひとつでいいじゃない。
もう、ひとりでいいじゃない。
僕たち。
だから、のみこんでしまいたい。
それが叶わぬのなから、
のみこんでしまわれたい。
ピンと張りつめるものを感じる。
もう少し、あと少し。
貴方が僕の口のなかにやってくる。
おいで、おいで、はやく、おいで、
全部全部、のみこんであげる。
『んっ、』
余裕がない声が聞こえてくる。
胸が高鳴る。
『あ、あ、っ、』
可愛い。
僕の口で感じてる声。
吸いとってあげる、
飲み込んであげる、
一滴残らず。
貴方の白いドロドロを、僕の体液にしてあげる。
それなのに、
『あぁッ』
苦しかった。
引き抜かれた瞬間。
でも、どうして抜かれてしまうの。
ムッとする、貴方の白いにおいがした。
頬が、顔が、
ドロッとして、熱かった。
21に、続く。