お酒も勧められたけれど、彼が飲めないのに飲みたいとはやっぱり思わなかった。
未成年の前だもの。
それで酔ってしまったりなんかしてしまったら、自分が自分を嫌になるだろ。
彼も飲めばいいのにっていうけれど、初めて泊まった家でそこまで図々しくなんてしたくない。
後でやっぱり、自分が自分を嫌になりそうで。
しかし、彼はこんなものを食べて生きているのかと思うと言葉にならない。
刺身にも天ぷらにも化けた河豚は美味しかった。
ああ、これで本当に何かあったら僕はいくら支払って責任を取らなくちゃいけなくなるのか。
考えると恐ろしいから思考を止めておいた。
それでもこじんまりとして、けれど綺麗に掃除がされている洗面台で並んで歯を磨いていると、同棲したらこんな感じなのだろうかと栓のないことを思ったものだ。
こんな暮らしをしている子が、こちらの生活水準に合わせて生活するなんて考えられないのだが。
とりあえずまた色々と余計なことを考えてしまいそうだから、肉厚な河豚の天ぷらを思い出すことにする。
塩で食べる天ぷらはなんて美味しいのだろう。
今は歯磨き粉の味しかしないのだが。
「遠い未来」
そして彼の言葉を思い出す。
「俺の遠い未来まで、お前を絶対連れていくから。」
ものすごい力があるよね。
若いから、何言ってんのって思っちゃうところもあるけど。
若いから、力があるよね。
熱いよね。
激しいよね。
僕にはない温度だ。
この子なら、決めたのことはどんなことでも成し遂げてしまうんじゃないかなって、思っちゃう。
怖い。
素敵過ぎて、今から怖い。
この子がどんな大人になるのか、眩暈がしそうなくらい怖い。
『つ、』
冷たい。
なんだなんだと慌てて意識を現実に戻すと、彼がビチャビチャと音を立てて口を濯いでいる。
『ちょ、うんほくん、』
歯ブラシを咥えながらだから変な呼び方になってしまった。
蛇口の勢いを緩くして、備えてあるタオルで辺りを拭いた。
そして肩にかけてた僕のタオルで水滴が跳ねまくった彼の顔を拭く。
『へへ、』
へへ、じゃ、ないよ。
もう。
前言撤回。
このまま大人になったら別な意味で要介護だよ。
歩く度にいろんなものが乱れていくかもしれない。
二人で部屋に戻ると、これまた綺麗に部屋が直されていて旅館以上の待遇だ。
なんだか一日がとても長い。
ベッドの傍に敷かれた布団に座ると、彼は部屋を出ていった。
そのまま倒れ込んで横になってみる。
するとまた、彼の言葉が蘇るのだ。
「俺が男見せてやるから、黙って俺についてこい。」
すごいよね。
すごいエネルギーだよね。
これで発電したらあと十年は電気が賄えるのではないか。
そのくらい、衝撃的だった。
そんな言葉を自分が結婚相手に言うならまだしも、
まさか年下の同性に言われるとは露ほども思わなかった。
そしてそんな言葉に、心が震えて頷いているとも、思わなかった。
嬉しいだなんて思うなんて。
思い出すと、よくわからないけど泣きたくなる。
すべてにおいて、もう、何がどうなっているのかわからない。
結局僕は彼のなんなのだ。
彼氏か。
彼氏。
そうか、彼氏か。
『チャンミン、』
『うわっ!』
布団の上で全部の毛が直毛になったような驚き。
この子は本当に心臓に悪い。
『なんだよ、エロいこと考えてたんだろ、』
『ちが、』
体を反転させると白い歯を見せて笑う彼が居た。
その顔がまた、可愛いんだ。
そして僕は反撃ができないまま溜まり込む。
彼は僕の布団の上に座ってきた。
『どこにいってたの、』
『ん、適当に寝るからもう誰も来るなよって言ってきた、』
あからさま過ぎる。
まあ、男女のお泊まりだったらそうなるけれど、家庭教師が泊まりに来た程度では周りの大人達はそうとは思わないかもしれない。
なんだっていい。
どうせ今夜からは逃れられないのだ。
頭の中でまたブツクサと考えていると、唇に柔らかいものがやってきた。
彼の唇だった。
歯磨きの後の、キスだった。
彼はそのまま僕の肩を掴み、布団の上に押し倒してくる。
ああ、もう、逃げられない。
僕の上に乗って、真上からキスがやってくる。
本当に上手だなって、やっぱり思う。
溶かされる。
目を閉じて、委ねる。
吸って、離れて、追われて、取られる。
彼は僕を追い詰めるようにして口内を潤す。
酸素の残量を忘れてしまうくらい、夢中にさせる。
離れた際に見える間近で見る彼の顔もまた、可愛くて。
『いいんだよな、お前がいいって、言ったんだよな。』
それは、寝る前になったら抱かれてもいいってことだろう。
確かに言ってしまった。
あのままあの時致していたら大変なことになっていたのだ。
言ってしまった。
けれど、仕方ないなというより、まあ、いいかなというところまで思えるようになった。
男の人となんかしたことはないけど、
それ以上に、
僕の気持ちが彼に傾いているということなのだろう。
『はい、』
返事をしたら、またキスをくれた。
『ここ、使ったことって、』
『あるわけないじゃないですか、』
浴衣を捲りあげて、足の間を指さしてくる。
こういうがさつなところはまだまだ要成長だろう。
『へへ、』
そして何故喜ぶのかわからない。
『一番、貰い。』
嬉しそうにそういうと、彼はある場所に手を伸ばした。
『脱げよ、』
思うよ。
僕だったら女の子にする時は脱がしてあげるね。
もう、この子は。
なんとなく恥ずかしくて、浴衣はきたままだ。
下着だけ外すとなんとも緩い反応を示していた。
彼は何かのボトルを手にしている。
『足、開いて、』
この子は自分で脱いだり開いたりするって相手の恥ずかしさを全く知らないのか。
セックスのテクニックだけで渡り歩いて来たのか。
可愛くない。
気遣いだってテクニックのひとつなんだぞ。
なんて言うともう部屋から一生出られない気がして言えやしないのだが。
仕方がないから足を開く。
『もっと、見えねえし、』
見るとか言うな。
ダメだ、この子に世の中の女の子を任せられない。
相当ドM体質でないとやっていけないのではないか。
足を大きく開くと、その間に彼が顔を寄せるように近づく。
僕はもうその様子を見ていられなかった。
顔を逸らして目を閉じた。
更に枕を引き寄せてそこに顔を押し付ける。
『ひっ、』
視界を遮ったことがいけないのか、よかったのか。
急に足の間に冷たいものが当てられた。
いや、垂らされたのか。
『あ、わっ、』
出ていくばかりの器官に何かが入っていく。
ぬるぬるとした感触がとても強い。
冷たい。
『どう、痛い?』
『いや、びっくりしたけど、痛くは、ない、かな、』
ちらりと枕の影から視線を覗かせて見ても角度的に彼の姿は捕らえられなかった。
遮ったことが裏目に出たか。
『あ、ああっ、』
そんなことを考えていたら、ブチュブチュとおまり美しくない音が響いた。
何かを押し込まれている。
多少の圧迫感を感じる。
痛いとか言うよりは、なにか、変。
今までに味わったことがない感触だ。
ていうか、いきなりお尻にいくのか。
もっとこう、しっとりと抱き合って気持ちを高めあっていくとかないのか。
それが夕飯前のあれだとしたら、ダメかもしれない。
彼への教育が必要かもしれない。
『ん、んんんっ』
中に入ってきたものが動いた。
『痛い?』
『...痛く、ない、けど、』
また枕から少しばかり覗かせると、今度は彼が覗き込んできて目が合った。
『ゆんほくん、』
『あん?』
今、自分がどんな顔をしているのかはわからない。
『いきなり、なの?』
『なにが、』
彼が手を舐めた。
もったりと垂れる雫を舐めた。
あの舌がそれを舐めとる。
不覚にも、きゅんとした。
『あんだよ、』
『うん、...いきなり、いれちゃうの?』
すると彼は瞬間的に顔を赤くさせた。
薄暗くてもよくわかる赤面度数。
『だって、俺だって男は初めてだし、』
うん、それはなんとなくわかってたけど。
『一回しただけだしっ』
なんだって?
その回数に驚いたというより、
それじゃあ今までのあのキスのセンスはなんだというのだ。
逆にそれまでのどうしようもない具合は酷く納得はできた。
けれど、僕に負けない部分をセックスと言い張った(照れてたけど)あれもなんだったのだ。
なんだろうな。
初体験が済んでしまえばもう一人前な気持ちでいられたということか。
わからなくもないけど。
いつまでも童貞かしら、なんて思っていた昔の自分も居たわけだし。
プロポーズはできちゃうけど、セックスは二回目っていう。
この、アンバランスな具合にまた眩暈がしそうだ。
唇を突き出して黙る顔も、また可愛い。
それとね、
貴方の貴重な初体験の相手になった女の子に少しヤキモチ妬いちゃうよ。
『ユンホくん、』
『......、』
『ユンホくんの初めて、僕が貰いたかったな。』
『そんなもの見せられっかよ、』
そうじゃないの。
そんなものだから、見たいの。
好きな人の初めてだもの。
『僕だって男の人とは初めてだよ。』
『俺だって、そうだし、』
まさか僕がこっち側だとは思わなかったけれど。
『ねえ、』
『あんだよっ、』
そんな顔しないで。
『ゆんほくん、やさしくしてね、』
『...、』
やり直し。
お互いに大好きなんだから、
お互いに好きって思いながらやり直してみようよ。
『キスして、やさしく、いっぱいして、』
虎の子から子犬のような顔になった彼もまた、可愛いものだ。
キスが始まると、また大人の彼が顔を覗かせる。
一進。
一退。
そしてまた、一進。
やるって決めたのなら、僕だって今夜は逃げないから。
貴方の二回目を、
たくさん気持ちを込めて、
僕にください。
13に続く‖Φ_ゝΦ)