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絶望だ。何て日だ……。
クリスマスも終わろうかという22時、僕は備府の部屋の前で立ち尽くしていた。
遡ること2日、僕は備府と早くもプレゼントを交換した。僕はプレゼントを受け取ったものの、中身はまだ知らない。クリスマスに改めて開封するという約束だったからだ。
「備府。聞こえてる?……貰ってたプレゼント、開けるね」
結局僕はそれを自室で一人、開封することにした。壁の向こうにいるであろう備府に聞こえるよう話しかけながら。何の反応もないのがとても虚しい。
ことの経緯はこうだ。
僕はサークルの付き合いでクリスマス前のイベントに参加した。それ以前も資格試験などでせわしくしていて、普段よりは随分備府といる時間が減っていた。クリスマスこそ二人でゆっくりしよう、と僕は備府に何度も言っていたし、自身にもそう言い聞かせながらここ一ヶ月を過ごしてきた。
けれどクリスマスイブの夜、僕は先輩らの誘いを断れず彼らの悪ふざけに付き合う事になったのだ。これまであまり不満を訴えてこなかった備府もこれには堪忍袋の緒が切れた様子で、とても怒られてしまったのだ。
備府の部屋にはしっかりと施錠がされて立ち入れない。連絡を取ろうと試みてもメールも電話も無視といった状態で、いまだに取り付く島もなく今に至る。
「はぁ……」
『聖夜に正拳突きする動画を撮影する!?馬鹿かお前!んなもんお前じゃなくたっていいだろ断れよ』
『大体お前が忙しいっつーから俺も邪魔しないように一人でいたんだぞ?そのくせサークルの奴らは部屋に入れてるし、呼ばれれば飛んでいくし、しょーもない要件も断りきれないってどういう事だよ?単に俺を蔑ろにしてぇだけなんじゃねえの?馬鹿にしてんだろ俺を!』
『だからそれが蔑ろだっつってんだよ!どうせぼっち相手なら好きとでも言っときゃ機嫌が直ると思ってんだろ!ふざけんなよ!』
『ハァ!?何が「仕事と私どっちが大事?」だよ面白いとでも思ってんのかこのタイミングで。あーそうですか、俺がクソ女と同レベルって言ってんだな。そーだよ俺はど底辺のカス野郎だよ、こんな奴華麗にスルーして馬鹿みてえな動画好きなだけ撮ってこいよ!よかったな!じゃあな!』
なだめようとすればする程ヒートアップしていく備府の様子はまるで、この1ヶ月積もりに積もらせた彼のフラストレーションの雪崩を見るようだった。
たしかに最近外での付き合いに重きを置いていたというか、備府ならいつでも会えるし互いに程々の理解があるから多少後手に回っても不安がない、などと勝手に思っていた。備府の理解にあぐらをかいていたなぁと反省するも、こうなっては後の祭りだった。
「はぁーーーーーー…………」
結局部屋を追い出されて以降なんの接触もないままイブは終わった。そして同じく、クリスマスも終わろうとしている。ああ、憂鬱だ。
何の抵抗もなく備府の言葉に全面降伏するわけではないけれど、それでも自分の愚行ぶりを思い知らされて頭を抱えずにはいられない。同時に、この1ヶ月の備府の気持ちに気付かされて気の毒さと申し訳なさが重くのしかかっている。
ガサガサと備府からもらった袋を開ける。そこにはやはり色んなものがゴチャゴチャと詰め込まれていた。
ファイル、ルーズリーフ、シャープペンシルの芯、僕が好きなアニメのカードとガチャガチャのフィギュア。冷えピタ、栄養ドリンク、カイロ。袋の一番下に見えるのは、BLに興奮する生物のキーホルダー。
備府が出歩きながら目に付いた「矢追が要りそうなもの」を、その都度購入していった姿が目に浮かんだ。たまりにたまってこの量になってしまって、とりあえず一番大きな袋につめてみた、と。
とても備府らしくて心が温かい。そして、備府が常日毎僕のことを気にかけてくれていたのだと思い知って、たまらなくなった。
「備府…。備府、ありがとう、ごめんね。あと、やっぱり好きだよ。ご機嫌取りじゃなくてね、本当に好きなんだ」
返事はやはりなかった。
「……」
意気消沈のまま、袋の底にいた生物のキーホルダーを取り出す。……すると、そのキーホルダーに鍵が連なっていることに気がついた。
「何の鍵だろ……。備府の私物が紛れ込んだのかな。でもこんなキーホルダーを備府が自分の鍵に付けるわけ無いしなぁ」
「これ、もし家の鍵だったなら困っ……」
そこで僕はハッとした。雷を受けたような衝撃が走り、全身の毛穴から抜けていく。
慌てて玄関へと走り出し、隣の備府の部屋の鍵穴にその鍵をあてがう。
カチリとドアが解錠する音を聞いて、僕はブワリと鳥肌が立った。胸がギュッと縮まるように苦しくて、ドキドキして、叫び出しそうで。
すっかり見慣れた部屋で、備府は僕の渡した漫画を読んでいた。
「あっ、あの、備府、この鍵って、その、合」
「……気付くの遅ぇんだよ、バーカターコ」
備府は僕を一瞥したあと、本で顔を覆った。
「うわ…うわあああああ備府ううううううう!!!!!」
「だああうっせえ!ハズい!!しゃべんな!!!」
ああ本当だ、耳が赤い。好きだ。備府、好きだ。
「備府、その……昨日はごめんね。昨日だけじゃなくて、ここ暫くずっと。備府にならいつでも会えるなんて思って、他所にばっかりいい顔してたけど……嫌な気持ちだったよね。ごめんね備府」
少しの沈黙。固唾をのみ見つめていると、顔を上げた備府と目が合った。その目をフイと外らされギクリとした、その時
「……お前が試験に受かってたら、許す」
備府は決まりが悪そうにしながら、そう絞り出した。
「よかった……。きっと許してもらえそうだ」
「へェ。覚えとけよ?」
安堵の声を漏らすと、備府がいたずらっぽくニヤリと笑った。
「……お前があんまり来ねーから、言いすぎて嫌気さされたかと思ったわ、はは…」
今度は備府がこちらを伺うようにおずおずとそう言った。たしかにあんなに派手に喧嘩をする事なんて滅多にない。
「締め出されて連絡もつかなくて、ああ今回ばかりは終わったかも、って思ったよ」
少し大げさで意地の悪い意言い方をすると、備府が目に見えて狼狽した。消え入りそうな声で「悪い」と呟いて、こちらへ向き直そうとした拍子に本の山を倒してしまい一人でどんどん切羽詰っていった。こういう所を見ていると、どうやっても嫌いにはなれないなぁなんて思ってしまう。
「でもこれからは僕を締め出せないね。四六時中僕の侵入を許しちゃうわけだ、喧嘩中でも。ふふ」
合鍵のキーホルダーを指で撫でる。神器を手にしたような気分だった。備府はモゴモゴと口を尖らせて目をそらした。
数日前「クリスマスプレゼントには僕が一番喜びそうなものを考えて」なんて冗談交じりに言ったけれど、まさか合鍵なんてものを貰えるとは夢にも思わなかった。備府の発想には感服するばかりだなぁと思う。そして、しみじみと湧き出てくる愛おしさをかみしめた。
「あ!これでいつでも夜這いOKってことだよね!夜這いフリーパスだ!やったぁ」
「矢追さんよぉコラァ!!一瞬くらいそういう発想をやめられないんすかね!!?」
「はいっ!ちょっと早いけど、クリスマスプレゼント☆彡」
「ど……ども、っす…」
備府は僕の手渡した手さげ袋の重さに戸惑っていた。
「試験の帰りにね、いろいろ物色してて見つけたんだー」
僕が備府に買ったのは、以前彼が探していると洩らしていた漫画、全15巻セットだ。ふらりと立ち寄った古本屋で偶然目にして思い出したのだった。
「をおおおおおおおお!!!!!!ちょ、おま、これ!!!!!」
「うふふん」
「うわーっ、わー、まじか!まじかコレ!ネットで探しても全く引っかからないやつだぞ!」
予想以上のリアクションにつられて僕も顔がほころんでしまう。
「発行部数も少ない古い漫画だって言ってたけど、あるところにはあるもんだね」
「ふおお……矢追さんサンキューです、マジリスペクトっす……!」
高揚のあまりか、備府は自身のキャラと随分ちぐはぐな言葉遣いになっている。
「いいぜメーン?」
備府のおかしなキャラに便乗して返すと、突っ込まれるどころか更に「ウェ〜イ」とグータッチまで交わしてきた。ここまで浮かれている姿を見ると、よほど欲しかったのだと知れる。
「けどお前さ、早すぎねぇ?クリスマスプレゼント。まだ2日あるんですけど」
「あははー、確かにただのお土産みたいになっちゃったね」
「……、俺も今やったほうがいいのか」
「えっ、あるの!?」
「い、一応……」
ゴニョゴニョと唇を尖らせる備府。いつの間に用意していたのやら、僕は少し驚いた。
「……これ…」
奥からガサガサと音が近づいてくる。見やると、レジ袋に何やら物がたくさん入っている様子だった。
「そんなにくれるの?わあ、何が入ってるんだろ」
「まあ…いろいろ……」
備府が妙に大人しい。すっかり口ごもって目線が泳いでしまっている。去年よりも随分と照れ隠しをしている様子の備府におのずと期待が高まる。レジ袋に無造作に入れられたそれらは、プレゼントというより差し入れ感が満載だけれど。
「あ!開けんなよ、一応お前がクリスマスのなんのっつーから用意したんだかんな!」
「ええ〜〜自分は見たのに……。気になるなあ!ちょっと見ていい?ちょっと、先っちょだけだから」
「先っちょっておま……オイ!マジで開けようとしてんじゃねーかやめろし」
玄関先でキャッキャとじゃれていると、携帯の着信音がそれを遮った。電話をとると、同じサークルの女子からだった。
『淳ちゅあ〜ん!!ごめんちょっと来てぇ!!』
「なに、どうしたの」
『明日のイベントに出すグッズが間に合わなくって!今とりあえず女子で製作やってるんだけど、淳ちゃん手先器用だし手伝ってもらえないかなあ!今から来れない!?お願い!!』
「ええっ……」
チラリと備府を見やると、声が筒抜けなのか不機嫌そうな顔でこちらを見ていた。
『キャー!ちょっと!ちょっとそれはやく押さえて!重石して!曲がったまま固まっちゃうから!!そっちも逆、ラミネート入れ口が逆!空気が入るから!』
電話の向こうから聞こえてくる声も、修羅場をありありと思い描かせる。見捨てるのは心苦しいものがあった。
「ち、ちょっと待って、かけ直すから」
ひとまず電話を切り、備府にお伺いを立てる事にした。
「……女」
備府の発した一単語からのプレッシャーがすごい。
「う、うん……明日出すグッズを作るの、思うように進んでないみたい…手伝って欲しいって……」
「へぇ。それってお前関係なくねぇ?そいつらがチンタラしてっからだろ」
「それはそうなんだけど…色々忙しかったのかもしれないし……ほ、ホラ、クリスマスには用事も全部終わるし、そしたら備府とゆっくりできるし、ね?」
「……あ、そ」
少しの間をおいて、釈然としない様子ながらに備府は納得してくれた。拗ねた様子に申し訳なく思いつつも、今から手伝いに行く旨を折り返し電話した。
「備府、プレゼントありがとね!開けるの楽しみにしとくから」
「もういいからさっさと行けよ『淳ちゃん』」
ううっ…
僕は後ろ髪を引かれながら、荷物を部屋に置いてマンションを出る。はやく全て片付けてクリスマスを迎えたいなぁと切に思った。あと少しだ、そう言い聞かせながら僕はキャンパスへと向かった。
全身はコチラ
「性の6時間」ってクラウドからの予測変換で出てくるんだけど、誰が使うんだよこんな言葉www
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_ わ た し で す _
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試験の日の朝、僕は会場へ向かうため準備をしていた。
つめこんだ内容がこぼれ落ちないように、テキストや間違った問題を何度も脳内で反復する。平常心で試験に臨もうと思う気持ちと裏腹に、浮き足立っているのが自分でも分かった。
ガチャリとドアを開けるとそれに合わせるように備府が顔を出した。その無気力そうな顔が外気にさらされて一瞬のうちに険しくなったのが面白くて少し笑ってしまった。
「備府おはよ」
「……ウッス」
備府は物陰から覗き見でもしているみたいに、顔半分だけを出して会釈してきた。僕が笑っているのが気に入らないのか、少し不服そうな表情だ。
「もしかしてお見送りしてくれるの?」
「……、コンビニ。飯。調子のんなハゲ」
スウェット一枚の軽装で、今も顔半分しか外に出れてない人間がコンビニまで行けるのかな……?
「おい!黙ってニヤニヤしてんじゃねーぞ気色悪い」
「地顔です〜」
「嘘つけ!絶対俺のこと馬鹿にしてただろ!……それよりお前、何が欲しいんだよ」
「なにが?」
「…………クリスマス」
備府はドアに隠れたままゴニョゴニョと語気を弱めた。「どうせ今年も何か寄越すんだろ」と続けたのだと思うけれど、口元も見えないしあまり聞き取れなかった。
「僕の欲しいもの、備府はなんだと思う?」
「はあ?!わかんねーから聞いてんだろーがっ」
「僕が一番喜びそうなモノ!なんだと思う?」
「うっぜぇーー!なんだお前!言えよ!うっぜ!マジで!uzeeeeeee!」
「考えて考えてっ」
「だあ〜〜〜もうっ!!」
だってね、僕が欲しいものは、備府が僕だけのことをアレコレと考えてくれたっていう時間なんだよ。備府が選んだプレゼントはつまり、僕のことを考えてくれた時間の証拠品なんだ。
……こんな事を思っているなんて知れたら、さすがの備府も気味悪がるだろうなぁ。
「……今から試験か」
「うん」
「フーン。……ま、せいぜい居眠りすんじゃねーぞ」
ううっ、備府、好きだ!
「……うん、頑張る」
「お前こないだ部屋ですっげー変な体勢で寝てたしな。ヒヒッ」
正直プレゼントよりも、こうしてちょくちょくと備府が僕を気にかけてくれること、それ自体が何より一番嬉しいんだよなぁ。
「備府、ちょっと」
僕は備府が顔を出しているドアの前に立ち、モフモフと寝癖だらけの髪を掻き撫でた。
「うおっ、寒っ!なんだよさっさと行けよ、つーか俺風呂入ってねーかんな!」
「撫でたらご利益もらえそうだと思って」
「俺は神社の岩か何かか」
「へへへー面白い、もっかい言って」
「うっせバァァカ!!さっさと行け!!」
「はいはーい」
ホクホクした気分でエレベーターのボタンを押した。待っている間、部屋の方を見るとまだ備府の顔が覗いていて、思わず顔がほころぶ。
『あぁん備府大好き〜!』
言葉のかわりに投げキッスを何度も送ると、険しい表情でレシーブされた。
うーん、いつも通りの朝だ。
僕の部屋は古いけれど広い。そのせいか、溜まり場になることもしばしばある。まさに今もそうだ。件のイベントへ向けての製本作業やグッズ製作を抜ける代わりに、場所を提供する事になったのだ。数名で作業をする声を聞きながら、僕は近づいてきた資格試験の勉強をしている。
「……」
過去問を解いていると、度々悩んで手が止まってしまう。そんな時に限って、聞こえてくる彼らの賑やかな声や物音がいやに耳についた。
だめだめ、カリカリしない。余裕が無くなる所から、悪いフラグが立っていくんだから……。そう言い聞かせて深呼吸をした。
「…………」
翌日、二つの授業で想定外の課題が出された。とても間が悪いとしか言い様がない。焦る気持ちは勿論のこと、被害妄想だと分かっていても四方から理不尽に襲われているような苛立ちを感じずにはいられなかった。
カリカリしてくる気持ちを抑えて、急いで課題に取り掛かる。今日も部屋では製本作業が行われていた。冷蔵庫も空になってしまったし、タオルとパンツももうないはずだ。部屋も散らかってきている。机の隙間に入り込んだ消しカスが無性に気になりだした。
あーーーー、あーーーーーーーー、
ああああああああああああ
「……お。起きた」
ボソボソと聞き慣れたトーンの声。いつの間に備府は部屋に来ていたのだろう。
覚醒してきた頭で状況を確認すると、僕は奇妙な体勢でベッドに体を預けていた。そういえば明け方にサークルの皆が解散して、これから集中して勉強ができるなぁと場所を移動したあたりで記憶がなくなっている。窓から入ってくる光が、今は昼前あたりだと告げていた。
「がっ、学校!!」
「学校?『自主休講』でいいじゃん」
飛び起きた僕を備府がへらへらと見つめている。だらしないと備府に抗議しようとして、ふと備府が僕の洗濯物を干している所だという事に気がついた。
「あれっ、備府、それ……」
「ああ、一回一万円な」
「高っ!」
「お前洗濯機に詰め込みすぎなんだよ。あ、一回じゃ終わんなかったから、二万円だったわー」
備府は得意げな表情で「褒められ待ち」のオーラを放っている。誇らしそうにシワシワになった僕のパンツをそのまま干していく。その詰めの甘さまで含めて愛嬌というか。
あ、ダメだ。好きだ。
フラフラと立ち上がると、僕はベランダの備府に抱きついた。
「お客さん困りますねー、こういうのは事務所を通してもらわないとー」
備府は茶化していたが、いつものように騒がないあたりを見ると満更でもない様子が伝わって来てより一層愛おしかった。
「備府ー」
「あんだよ」
「備ー府ーー」
「聞こえてるっつーの」
「備府はいつお嫁に来るの?」
「来世」
「あーもう、またそういうデリケートなボケを……」
ため息をつき体を離すと、備府がじっとこちらを見つめていた。先日見せた「誘い受け備府」の表情。僕は思わずドキリとする。
そういえば昔はろくに僕の目も見てくれなかったなァと、顔を合わせたばかりの頃を思い出す。なんだか感慨深いものがあった。
「なあ、どうすんの、学校」
備府の言葉の意図を汲み取り、僕はドギマギと立ち尽くす。
顔を覆うざんばら髪、表情を隠すような分厚い眼鏡、そこからのぞく吊り気味の大きな眼、童顔と老け込んだ立ち姿の不調和……会った当初は得体がしれず不気味にも思えた彼の姿が、深く知り合った今では他の何よりも可愛くて愛おしくて仕方がない。
「それって誘ってるんだよね?」
可愛くて仕方がない備府を慈しみたい。そう思う気持ちと同時に、彼にも僕を受け入れて欲しいという欲求がとめどなく溢れてくる。
「じゃあさ、触ってもいい?」
備府のまっさらな部分を独占したい、僕だけに見せる表情があって欲しい、備府の頭の中から僕以外を無くしてしまいたい。それだけじゃない、もっと色々な……。そういう自身の貪汚な部分を受け止めて欲しいと思ってしまう。いや、「受け止めて欲しい」なんて聞こえの良いものではなく、「僕の貪汚さをねじこみたい」という方が正確だったりする。
独占欲は憚られるものだと分かっている。だからこそ余計に、彼の中を占めていく手応えを感じた時の快感はとても甘美で。
「さ、触っ……違、俺は別にそういうヘンな意味じゃ……」
「はは、今更そんなに緊張しちゃう?……ほら、汗かいてるよ」
「ばっ、触んな!てめー学校行けよ学生だろ!」
「その言葉そっくりそのまま備府にも返したい所だけど」
「……」
「……ほら、風邪引くよ。こっちおいで」
学業にあんなに躍起になっていたはずの僕は、その日あっけなく大学を「自主休講」した。
その日以降、僕は憑き物が落ちたように勉強がはかどり試験でも充分な手応えを得ることができたから不思議なものだ。
後日これを備府に話すと、「俺は進研ゼミか」と笑っていた。その例えはどうかと思ったけれど、言わんとするところは伝わった。
※矢追は最初の頃はもうちょっと性格悪かったよなあと思って、そこそこ嫌な奴にしました
※進たちとの時間の流れ方の差とか気にしない
青年はその後、自分の居場所を見つける旅に出ようと決意する。
まずは助けた姉弟の村に行き、暫く居候することに。
その村は、野盗や進軍中の兵士などに荒らされる事がしばしばで荒廃していた。
青年は一騎当千ぶりを余すことなく発揮し、治安回復から村の復興を手伝う。
村民たちに頼られすっかり村の中心人物になってしまった青年は、結局その村に骨を埋めることになる。思っていたより早く自分を必要としてくれる人々に出会えたのだった。
ちなみに青年は、助けた姉弟の姉と一緒になる。
少女が自分に惚れている事に気付きつつも、まだ子供なためはぐらかしていた青年。少女が大人になった頃に、弟をはじめとする村民たちの粋な計らいで見事くっつく事になった。年の差は12、3くらいかな。
12月も折り返し地点に来た頃、僕は多忙を極めていた。クリスマス前の祝日にサークルの有志でイベント参加をしようという呼びかけがあり、有無を言わさず参加させられる羽目になったのだ。
年末といえば、学期末のように大きなレポートやテスト勉強に追われる事もない。このうちにいくらか資格試験を受けておこう、などと一応学生らしいことも考えて後期は資格講座を受講していたのだけれど、今回見事にその試験とイベントが前後している。授業と試験とイベントの準備……修羅場と呼ぶには生ぬるいものの、それらは着実に僕から余裕を奪っていた。
「ちーーっす」
疲れが見え始めた頃、勢いよく部屋に入ってきたのは備府だった。この時僕は授業発表のレジュメ作りが終わり、イベントで発行する本の原稿にさしかかった所だった。
そういえば備府とここ数日顔を合わせていなかったなぁと思うものの、原稿の締め切りも明後日だ。サクッと終わらせてしまいたい。あわよくば試験の暗記も…と思っていたけれど、それはまだ明日にしよう。
「備府ごめんね今構えないー」
「でぇ〜っなんだその上からな物言い〜お願い氏んでぇ〜」
備府はいつもと変わらない様子で僕の横をすり抜け、雑誌を手にとってベッドへダイブした。そのままゴロゴロと寝転がって雑誌を読んでいる。こういう時、備府は理解があるのでとても有難いと思う。
「ごめんね」
「べっつにィ。俺は今週のジャンプが読みたかっただけですしおすしィ」
暫く雑誌を読んでいた備府だったが、気がつくと軽いいびき混じりの寝息が聞こえてきた。備府の弛緩しきった気配を感じながら作業をするのは、思いのほか落ち着いた。備府が来たことで、部屋の空気が穏やかなものになったような。
ああ、僕も寝たいなぁ。備府を抱き枕にして眠る自分を思い浮かべると、想像上の自分が羨ましすぎて妬ましくなった。いいや、現実逃避はよそう。真面目に原稿を片付けてしまおう。
「ふあー、寝てた……ってお前まだやってんのかよ」
二時間ほどして備府が起き上がった。抱き枕ならぬ備府枕の目論見が潰えて少し残念に思っ……たのも束の間、備府が僕の横にぺしゃりと座り込んできた。
「何してんの」
「あぁ、これ?もうすぐイベントで出す本の原稿」
備府の家のシャンプーと備府の匂いがふわりと鼻腔をかすめる。
「……ふーん……何ページ?短くね?」
「合同誌だから…」
「エロいやつ?ちげーの?」
「ふ、普通のやつ……」
画面を覗き込もうとグイグイ寄ってくる備府に手を伸ばしたくなる心を律する。今は時間がないから。イチャイチャしだすと止まらないから。だからお触り禁止……
「ふーーーん、つまんねーの」
柔らかそうな頬とおいしそうな耳、コシのある髪が視界を占める。あああ、触りたい、触りたい触りたい……!
「……」
ちょっとだけ、と僕は備府の髪を撫でた。ああ、この感触!これだよ僕が求める癒やしの手触りは……!
久しぶりの感触にじんわりと感動を噛み締めていると、振り返った備府と目があった。
「……なんだよ」
備府は大きな目でじっとこちらを見つめてくる。ああ、だめだって。こんなに近いんだから、そんなに見つめ合っちゃうとね、いい雰囲気みたいになっちゃうでしょ? 備府はどうせ何も考えてないんだろうけど、今誘い受けみたいになってるよ?もっと色々したくなっちゃうでしょ?
僕の作業を阻もうとする伏兵がこんなところにいるなんて、参ってしまう。
「ご、ごめん…コレ、終わらせてしまいたいから……そこ、あけてくれるかな…」
よし、よく言った矢追淳!今は煩悩を捨て去れ!
「……あ、そ」
備府は唇を尖らせて立ち上がった。
「帰る」
備府はつまらなさそうに、再び僕の前をすり抜けていった。
「…ごめんね」
「……バーカ」
備府の声はやはり不機嫌だった。
もしやあの時、備府は本当に僕を誘っていたんじゃないだろうか……そう思ったのは数日後。自己処理をしようとして、あの時の備府を思い返していた時だった。
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完 全 に プ ロ の 犯 行
もう感動のあまり爆発しましたよ。ええ。
人間、感激すると本気でギャグマンガみたいなリアクションをしてしまうし、萌えが限界突破するとゲンドウのポーズで暫くの間固まってしまうんですよ。知らなかったでしょ?
性 別 | 男性 |
年 齢 | 73 |
誕生日 | 8月18日 |
地 域 | 福岡県 |
系 統 | ギャル系 |
職 業 | 小学生 |
血液型 | B型 |