暁晴斗が成り行きで怪人を倒してから約1ヶ月。本部の環境にも慣れ始めた。
鼎さんの仮面の理由・晴斗が知りたいことについては後日話すと本人が言ってたが…音沙汰なしであれから数日経過してる。
ゼルフェノア本部・司令室。鼎は宇崎から調整して貰った日本刀型ブレードを受け取る。
「鼎、ブレードは発動出来ないように制御かけたから。これで負荷が軽減すればいいが。お前はハンデがあるぶん、装備で補わないとならないからね」
「ありがとうございます」
「対怪人用のブーツ、慣れたか?」
宇崎は鼎の足元を見る。一見ただの黒いショートブーツだが、実は対怪人用。鼎は蹴り技が得意なため、ブーツも戦闘仕様に変更してる。
「履き心地もいいですし、ほとんど変わらないですね」
「まぁそのブーツの真価は蹴り技が出た時に発揮されるからね。ここ数日はメギドが出てないもんな…。鼎、お前無理して『あのこと』を晴斗に言わなくてもいいんだぞ?相談にはいつでも乗ってやるからな。彩音もそうだろ?」
室長は鋭い。一見ふざけているようだが、見抜いている。
宇崎は鼎にホットコーヒーを淹れた。
「たまには息抜きした方がいいぞ。グラウンドを見ろ、和希と晴斗がキャッチボールしているな〜。あいつらも束の間の息抜きしてんじゃないか?」
本部・グラウンド。その晴斗と御堂はなぜかキャッチボールしていた。
「なんで御堂さんとキャッチボールなんですか」
「お前が最近もやもやしてっから、運動がてらに話聞いてやんよ」
御堂はボールを投げた。晴斗はあわあわしながらもキャッチ。そして御堂にボールを返す。
「鼎さん、あれから音沙汰ないんだよー」
「あいつだって心の準備があるんだ、すぐにお前に言えるかってーの!」
御堂は振りかぶって投げた。晴斗はボールが捕れず、追いかけた。
「御堂さん、飛ばしすぎー!」
「悪ぃ、手加減しなかったわ」
晴斗も負けじとボールをぶん投げる。
「鼎さん、そのうち言うのかな」
「気長に待て!それだけだ」
端から見たら部活のような光景だが、対怪人組織。
本部・司令室。鼎は仮面をずらし、器用にコーヒーを飲んでいた。
「少しは落ち着いたか?コーヒーに合うお茶菓子もあるから食べな」
「…ありがとうございます」
晴斗と御堂はグラウンドから帰ってきた。休憩所でいきなりこれ。
「御堂さん、この組織って名乗りとか決めポーズとかないんですか!?」
御堂はだるそう。出た…一時隊員にありがちな現象。晴斗、お前もか。お前も型から入るタイプなのか。
「あるわけねぇだろ。晴斗、お前ヒーローに幻想抱きすぎ」
「幻想なんかあるかよ。父さんはヒーローだったから…」
御堂は何かに思い当たり、なんとなく聞いてみる。
「お前の父親って『暁陽一』か?」
「え?そうだよ」
暁陽一って、ゼルフェノア黎明期にいた隊長じゃねぇか!そいつの息子かよ!
…なら、ヒーローに憧れるのも無理はないか…。
「御堂さんは父さんを知ってんの?」
「名前だけは聞いたことはある。今の隊員は名前だけは聞いたことあるやつが多いんじゃねぇの?黎明期にいたメンバーで、今現在残っているやつは数人しかいないらしいからな」
ゼルフェノア黎明期に父さんがいた?
街をパトロールしていた隊員から通信が入った。
「某町郊外にある緑地公園にてメギド及び戦闘員を目撃。戦闘員の数多数。10体以上います!応援を頼みます!!」
「了解した。御堂主導で出動してくれ!晴斗も行ってこい」
「了解」
「行ってきます!」
御堂と晴斗が出て数分後。鼎と彩音も遅れて出動した。戦闘員の数が予想外に多いためだ。
某町郊外・緑地公園。そこにはメギド戦闘員がうじゃうじゃいた。
「なにこれ…」
「晴斗、いいから攻撃しろ!やられるぞ!戦闘員と云えども数の暴力はマズイからな…」
「は、はいぃーっ!」
晴斗は内心パニクっていた。こんな数の戦闘員初めて見た。
数分後、鼎と彩音も到着。
「ごめん、御堂さん遅れた!」
「御堂…すまない」
「いいから殲滅しろ!数がやべーんだ」
鼎はブレードを抜刀。彩音は銃撃と肉弾戦で戦う。
御堂はやけくそに二丁拳銃で戦闘員を蜂の巣にしてる。晴斗は鉈で戦うも、思うように動けてない。
御堂は気づいた。一時隊員が慣れ始めた頃に起きる現象だな…。慣れ始めた頃に起きるケアレスミスに近い。
御堂は戦闘員の数を見て、広範囲攻撃出来るやつはいないかと探していた。
「御堂さん、どうしたの!?」
彩音が聞く。
「広範囲攻撃出来る人間がいねーかと見てるんだが…」
「私のブレードは制御してあるから発動不可能だぞ」
マジかよ…。そんな中、晴斗はひたすら戦闘員を叩き切っている。
今いる面子では広範囲攻撃出来る人間がいない。鼎のブレードは発動を使えば広範囲攻撃可能。だが今は制御してあるので発動不可。
晴斗と彩音のおかげで地味に戦闘員は次々と倒されていくが、罠が待ち構えていた。
火の手がないのに突如、炎に包まれたのである。明らかにゼルフェノア隊員を狙い、サークル状に炎が。
炎を見た瞬間、鼎の様子がおかしくなる。攻撃の手を止め、動けなくなったのだ。まるでフリーズしたかのように固まる鼎。
彩音は気づいた。鼎は火が苦手。それもかなりのトラウマを抱えている。
「御堂さんと晴斗くん、そっちで攻撃よろしくお願いします!私は鼎のところへ行かなくちゃ…」
「よりによって炎とか、鬼畜かよ…」
御堂、苛立ちを見せる。御堂も鼎が火が苦手なのを知っていた。
早く消火したいところだが、メギドの姿が見えない。なんかイラつくなっ!
彩音は鼎の元へと来た。鼎はブレードを落とし、立て膝をついている。
炎のトラウマが蘇ったんだ…。よく見ると鼎は震えてる。
なんとか炎から顔を背けているようだが、サークル状に火が放たれたためどうしても視界に入ってしまう。
「鼎、目…閉じて。それが無理なら私が視界を一時的に閉ざしてあげるから」
「彩音…」
鼎の声が震えてる。かなり怯えている様子。彩音は背後からそっと鼎の仮面の目を手で塞いだ。
鼎の視界は真っ暗になる。
「私がいるから大丈夫だよ」
鼎からはすすり泣く声が聞こえた。炎のトラウマであれを思い出してしまったんだね…。
彩音はそっと抱きしめる。鼎の視界に炎が入らないようにして。
その間、御堂と晴斗は連携して戦闘員を倒してた。
「鼎さん、何があったんだろ…」
「晴斗、鼎は火が苦手なんだよ。それもかなりのトラウマレベルのな。あいつは火を見ると動けなくなってしまう」
今までの戦闘、思い返せば鼎さんは怪人が爆破した時も毎回背を向けていたり顔を背けていた。
あれはカッコつけてたんじゃなくて…炎が苦手だったからだったんだ…。
晴斗は鼎をチラ見する。遠目でも怯えているのがわかる。
「消火ってまだなの!?」
「メギド倒さないと消えないみてーだな」
「今度は炎系?」
「違う気がする。火を放ったやつはあらかじめ罠を仕掛けていた可能性が高い」
晴斗は気が気じゃなかった。鼎さんはあんなにも怯えてる…。
そんな中、メギドがお出ましした。御堂の予想通り、炎系ではなかった。
晴斗は闇雲に攻撃するも、敵の攻撃により対怪人用鉈・東雲が真っ二つに折れてしまう。
「折れたあああああ!!」
御堂は状況を冷静に判断。
晴斗の東雲は刀身折られて使えない・鼎は火のトラウマで戦意喪失寸前まで来てる・彩音はそんな鼎から離れられない状況・戦えるの…俺しかいねぇじゃん!
御堂は先にいた隊員に通信。
「消火隊は来ているか?」
「あと数分かかるそうです」
「了解。じゃあ俺はメギド倒すから。消火隊が来たら消火を頼む。鼎を助けてやりたい」
「了解しました」
御堂は次なる装備を構えた。御堂は銃の扱いに長けている。
カスタム銃以外にも当然、持っている時もあるわけで。
どこからか、サブマシンガンを出してきた。そんなもんどこにあったよ!?
実は御堂は現場急行時、組織の車両に別の銃火器を何種類か積んでいた。二丁拳銃は2つともカスタム銃だったが。
御堂はメギドに狙いを定め、銃撃するが相手は素早い。晴斗はいてもたってもいられなくなり、助走つけてからの飛び蹴りを喰らわせる。
「晴斗、邪魔すんな!」
「俺だってまだ戦えます!」
御堂はチッと舌打ちしたが、気が変わったらしい。
「お前と連携してこいつをぶっ倒す!」
御堂はサブマシンガンからサバイバルナイフへと装備を変えた。サバイバルナイフは近接戦用。
御堂は近接戦で倒すと決めた模様。
「晴斗、行くぞ」
「はい!」
第7話(下)へ続く。