本部・トレーニングルーム。そこでは時任がシミュレーション怪人と取っ組み合いをしてる。時任もあの幹部達の強さを見て、鍛練していた。
私も強くならなくちゃ…!こないだのあれ、強さが違いすぎるよーっ!
時任は偽物怪人を倒す。偽物怪人は消えた。
そんなトレーニングルームに宇崎・蔦沼長官と南・鼎が来た。
時任はまさかの長官の登場にガチガチに緊張してパニクってしまう。
「ちょ、ちょちょちょちょ長官!?お疲れ様です」
蔦沼はにこやかに時任を労う。
「時任かい。よく頑張ってるね。シミュレーション怪人使ってくれたのか」
「は、はいっ!」
時任はガチガチに緊張しすぎて、なんだか変になっていた。
横目で長官の両腕の黒い義手を見る。蔦沼長官、「義手の長官」って本当だったんだ――。
あの義手、戦闘兼用だって聞いたけど…むちゃくちゃ強そう。
蔦沼はこんなことを鼎と宇崎にフランクに話す。
「火のトラウマの克服なら、まずはシミュレーション怪人装置を使ったバーチャルで試してみればいいよ。
見た目はリアルな炎だが、熱くない。偽物だからね。偽物を克服出来たら、本物をだんだん克服していくのさ。段階的にね」
「出来るだろうか…」
鼎は不安そう。長官も鼎の過去や正体を知ってる身なので語り口は優しい。
…というか、蔦沼は優しい話し方をする。敵は別だが。
時任はそんな長官達の会話を盗み聞きしたわけではないが聞こえていたため、2年前のことを思い出す。
2年前。本部・休憩所。
時任は御堂に前から気になっていたことを聞いていた。
「…み、御堂さん」
「時任どうした」
御堂は無愛想な反応。
「なんできりゅさん…仮面を着けているんですか?何か理由でもあるの?」
御堂はだるそうに答える。
「鼎はなぁ。顔に大火傷の跡があるんだよ、色々あったみたいでな。あいつは仮面なしでは外出出来ないレベルなんだよ」
「えっ…。大火傷……。しかも顔な…の…?」
時任の声がだんだん小さくなる。軽くショックを受けてる模様。
「時任、鼎は火がものすごく苦手なんだ。苦手ってもんじゃねぇ。かなりのトラウマを抱えてる。
…だから…あいつに接する時はちょっと慎重にしてくれよ。お前は言動のわりにはしっかりしてるから大丈夫だろうが」
「私、きりゅさんにもっと優しく出来るかなぁ」
―現在。そのきりゅさんが今…火のトラウマを克服しようとしてるんだ…。
時任はなんだか複雑そう。
宇崎は鼎が言ったあることを蔦沼に聞いてみた。
「鼎の鷹稜が飛焔撃破の鍵になるという情報、長官が彼女に吹き込んだのですか?」
「僕は解析班にゼノクからの情報提供しただけだが?」
質問に質問で返すなよ!
…と、いうことは鼎は解析班から聞いたのか…。ゼノク経由の情報を解析班から?
蔦沼はシミュレーション怪人装置の設定を弄り始めた。
「この装置はシミュレーション怪人がメインだが、こんなことも出来るわけ。
バーチャルシチュエーション。例えば嵐や水辺。炎も再現出来る。こっちも怪我はしないけど、シミュレーション怪人みたいに段階的に強く出来るんだ。だから「強」設定にすると炎は熱く感じることが出来る。偽物だから怪我はしないよ」
そんなモードあったんかいっ!
宇崎は突っ込みそうになるが、相手は長官なので心の中で突っ込んだ。
そして設定完了。蔦沼はバーチャルシチュエーションモードでデモンストレーションにわかりやすい嵐を再現。トレーニングルームは突風が吹き荒れた。
蔦沼は嵐から炎に変える。すると辺り一面、炎に。「弱」設定にしてあるため、熱さはない。
鼎は偽物だとわかってはいたが、体が硬直していた。
宇崎は心配する。
「鼎、無理する必要…ないんだぞ?長官、炎の範囲…狭く出来ますか?彼女の火の克服はたき火レベルからじゃないと…!」
「そうだったね。紀柳院、怖がらせてごめんね」
蔦沼は謝り、鼎を落ち着かせる。蔦沼は鼎の肩に優しく触れる。
義手は冷たいはずなのに…長官の義手は温かい。温かく感じる。
「少しずつでいいんだよ、トラウマの克服は。無理する必要もない。ゆっくり行こう」
この人は優しい。隊員思いなせいか、信頼されているのもわかる。
鼎はようやく動けた。偽物の火がたき火サイズになったのもある。
「宇崎、設定のやり方はシミュレーション怪人とほとんど変わらないからね。「強」はしばらく使うなよ。
…あと、紀柳院の火の克服、彼女以外にもう1人つけておくこと。わかった?たき火レベルでなんとか動けたとなると…紀柳院はゆっくりでいいからね」
蔦沼は設定を怪人モードに戻した。偽物の炎は消えた。
シチュエーションモードは偽物怪人のように、何かをすると消えるわけではない。装置の設定を変えるか、電源を切らないと消えないようになっている。
鼎は疲れたのか、へたりこんだ。時任は思わず駆け寄る。
「き、きりゅさん…大丈夫?」
「時任…?」
「ごめん、なんだか体が勝手に動いちゃって…」
時任はあわあわしてる。
「気持ちだけは受け取るよ。心配してくれたのか」
「…うん」
司令室。長官はまだ帰る気がないらしく、南は時間を気にしてる。
「長官、まだ帰らないんですか。スケジュール残ってますよ」
「あれは全てゼノクだから、予定が多少ずれても問題ないだろう?南」
「た、確かに…」
宇崎は長官にホットコーヒーを淹れた。
「まだ帰らないのって、気になっていることがあるからですよね。蔦沼長官」
「宇崎にはバレバレか」
宇崎は長官の義手を見る。
蔦沼の両腕が義手になったきっかけは、敵サイドと深く関係している。
「元老院を監視したのって、長と因縁があるからですよね?蔦沼長官」
「あいつに両腕を切断されてしまったからねぇ。あれは何年前だ?南…いつだっけ」
南は手帳をパラパラ見てる。
「えーと10年くらい前ですね。元老院の長・鳶旺と戦ったのは」
「その戦いに敗北したのさ。鳶旺は僕のこと、覚えているかはわからないがゼルフェノアを潰したいと思っているはず。
元老院の人間は皆似たような出で立ちだが、鳶旺が最年長のはずだったな。
素顔の見た目年齢は僕と同じくらいだよ。元老院が厄介なのは、出で立ちが似たり寄ったりなせいで判別がつけにくい。鳶旺と絲庵はわかりやすいが」
長官は鳶旺の素顔を見たのか…?
異空間。元老院本拠地。
鳶旺はあることが非常に気になっていた。
10年くらい前に戦った、あのゼルフェノアの蔦沼栄治という男。彼に関する情報がほとんど入ってこない。
戦闘不能にするべく、両腕切断という大ダメージは与えたが殺したわけではないため、生きているはずだが…。
「長、どうかしたのですか?」
部屋に絲庵が入ってきた。
「あの男とはまた戦いそうな気がしてな」
「蔦沼栄治のことですか」
鳶旺は気を取り直したみたいだった。
「とにかく、ゼルフェノアを潰す。それと新しい監察官をそろそろ抜擢しようかね。人間を出されたらゼルフェノアは手出しが出来んからな」
「監察官を抜擢…ですか。一体誰を選ぶのです?候補は5人いますよ」
「それは私が決める。ああそうだ。監察官候補の人間に仮面の掟は効いてるようだな。戦闘力も上がっている。
あの伊波という女は洗脳が不完全だが使えるな。彼女のみ、人前以外でも仮面を外すなと伝えておけ」
「荒療治すぎません?あまりに度が過ぎると脱走しかねないですよ」
「脱走しても絶望しかあるまいよ。迷い人はな」
その日の夜。伊波は絲庵から「人前以外でも仮面を外すな」と宣告されてしまう。
伊波はショックを受けていた。なんで私だけ?泣きたいけど、泣けない。仮面慣れしたせいもある…。
そこへ高槻がこっそり伊波の部屋へ来た。
「…高槻さん?」
「話は聞いたよ。それは洗脳を強化するための策だろう。ただでさえ辛いのに。明日、監察官が長の選出で決定するらしい」
「なんか…急すぎますよね…。何が起きてるのか…」
本部・解析班。朝倉はゼノクから送られてきた武器データを改めて見る。
まさか鼎さんが解析班に来るなんてびっくりしたわ…。
数時間前。鼎はいきなり解析班の部屋を訪ねる。そしてあることを聞いた。
「解析班に敵幹部のデータはあるか?火を使う飛焔の詳細を見せてくれ」
「えっ?えぇ…。ちょっと待ってね。今出すから」
朝倉は突然やってきた鼎に驚きを見せる。まさかの鼎さんかいっ!解析班来るのたぶん初めてだよね、この人。
本当に彼女、仮面着けてるよ…。視界が狭いはずなのによく動くな〜。仮面の理由はざっくりと聞いてただけに、なんだか複雑。
解析班は戦闘する隊員との関わりが比較的薄いため、いきなり来られると耐性がないのだ。
朝倉は飛焔のデータを見せる。鼎は朝倉にさらに聞いた。
「朝倉…だったか。何か武器に関するデータはないか?飛焔を撃破する参考にしたい」
「武器データは司令の研究室にあるは…ず!?…なにこれ、ゼノクからデータ情報来てるわ」
朝倉はゼノクから送られてきた武器データを開く。そこには敵幹部と相性のいい武器のシミュレーションデータが。
「飛焔は…鷹稜(たかかど)!?因縁しか感じない…」
「鼎さん、それシミュレーションデータだよ……」
鼎はそれどころではない様子だった。幹部に敗北してからたった数日後なので、対策したいんだ。
それからしばらくは晴斗達は幹部との再戦に備え、鍛練を積み重ねていくこととなる。
鼎も火の克服を少しずつ進めていた。ゆっくりだけども確実に。